家族のあり方を問う映画を次々と手がける是枝裕和監督。
最新作もその路線だが、意表を突く想定外の物語だった。
犯罪を介したワケあり家族……。
カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドール受賞作。
大都会の真ん中にポツンと建つ古びた平屋の一軒家。
室内は散らかし放題で、とにかく汚い。
そこに5人家族が暮らしている。
日雇い労働者の父親(リリー・フランキー)、クリーニング店で働く母親(安藤サクラ)、彼女の妹(松岡茉優)、息子(城桧吏)、そして祖母(樹木希林)。
下品な言葉が飛び交い、喧嘩も絶えない。
しかし常に会話があり、みな自然体で、表情が明るい。
どこか昭和の匂いが感じられる。
この家族の実像が冒頭から暴かれる。
スーパーで父親と息子が万引きをするのだ。
祖母の年金と夫婦の収入でやり繰りできなくなると、安易に犯罪に走る。
他の家族も類似のことをしているのが後でわかってくる。
罪の意識が全くないのが驚きだ。
是枝監督は彼らを犯罪者としてではなく、どこまでも寄り添って見つめる。
団地の廊下で座っている女の子(佐々木みゆ)を父親が連れて帰り、家族の一員にしてからドラマがさらに盛り上がる。
その子の体には傷やアザが……。
社会の繁栄から取り残された奇妙な家族像が次第に明かされていく。
各人、いろんな事情を抱えているのが随所に挿入される過去の映像で浮かんでくる。
1枚1枚、ゆっくりと剥がされていく虚構の皮。
一体、彼らは何者なのだ?
その答えを導く過程を、多彩な俳優陣の演技力を生かし、寓話的に描いているところが本作の持ち味。
血縁とは関係のない家族の繋がり。
『そして父になる』(2013年)、『海街diary』(15年)とテーマが同じだ。
現代社会の断片をこんな風に斬るとは恐れ入った。
2時間
★★★★(見逃せない)
☆8日からTOHOシネマズ梅田ほかで公開
(日本経済新聞夕刊に2018年6月8日に掲載。許可のない転載は禁じます)