武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

ケルト

アイルランド、「ケルト」の神話

投稿日:2009年2月12日 更新日:

モハーの断崖
京都のアイリッシュ・パブを経営する知人から、小学生向けになにかアイルランドの物語を書いてほしいと依頼があり、以下のような原稿を執筆しました。少し長いかもしれませんが……。写真はアイルランド西部の観光地、モハーの断崖です。
    ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
アイルランドには、ふしぎな伝説や物語がいっぱいのこっています。なかでも妖精が登場する話が多いようです。それらは「ケルト」の神話と呼ばれています。
大昔、ケルト人という民族がヨーロッパ大陸で独特な文化を生み出しました。人が死んでも魂はずっと生きつづける、死んでからの世界と現実の世界を行き来できる……。そんな考えを彼らは抱いていました。
妖精はあの世の住人です。妖精なんて存在するはずがないと思えば、ぜったいに見えません。しかしケルト人は目に見えないものを信じていたのです。
アイルランドの人たちは、自分たちがケルト人の子孫だと思っています。ほんとうのことはよくわかっていませんが、英語とはまったく異なるケルト語という言葉が話されているのですから、なんらかのかかわりがあったのはまちがいないでしょう。
さて、「ケルト」の神話のなかで、よく知られているのが「オシーンの物語」です。それはこんなストーリー……。
   *     *     *     *
アイルランドの国をまもる騎士団長の息子オシーンは、ハンサムで勇気のある騎士でした。ある日、海岸を散歩していると、西の海から美しい女性が白馬に乗ってやってきました。そしてこう言ったのです。
「前からオシーンさまのことが好きでした。わたしの国で一緒に暮らしませんか」
突然のプロポーズに、オシーンは「はい」と答えました。あまりの美しさに心を引かれたのです。ふたりを乗せた白馬は海のうえを駆けていったかと思うと、海中に入り、どんどんもぐっていきました。やがて光かがやく空間が見えてきました。
そこは「ティル・ナ・ノーグ」と呼ばれる国です。年をとらず、病気もせず、おだやかな音楽が流れている、まるで天国のようなところ。じつは妖精の国だったのです。女性はその国の王女でした。
オシーンはすっかりそこを気に入り、毎日、楽しく暮らしていました。あっという間に3年がたち、しだいに故郷へ帰りたいと思うようになりました。妖精の王女はとても悲しがりましたが、夫の気持ちを理解し、「わかりました。この白馬に乗っていきなさい。しかし馬からおりてはいけませんよ」とアドバイスをあたえました。
オシーンは妻に感謝し、よろこび勇んでアイルランドにもどりました。しかし様子がおかしいのです。緑でおおわれていた大地がすっかり荒れ果て、枯れ木がポツン、ポツンと立っているだけ。なんという寒々しい光景。自分の家族も友だちもいません。
そのうち男たちが道のまんなかで大きな岩を押しているのを見かけました。なにをかくそう、オシーンは巨人だったのです。だからこんな岩ならなんなく動かせます。馬に乗ったまま、片手で岩を押しのけた、まさにそのときクラがこわれ、落馬してしまいました。
その途端、美しい青年だったオシーンの髪の毛が真っ白になり、腰まで伸びました。顔もしわだらけ。そして体がくずれ、ついには灰になってしまいました。妖精の国の3年が、現実の世界では300年たっていたのです。
どこかで聞いたことのある物語ですね。そう、『浦島太郎』とそっくり。西の海のかなたに妖精の国があると信じている人がいまでも少なくありません。

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。