ポーランド映画『ソハの地下水道』がきょうから公開されます。
昨年、ポーランドを訪れ、第2次大戦の生々しい傷跡を見てきただけに、この映画はグッと胸に突き刺さりました。
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第2次大戦中のユダヤ人に対するナチス・ドイツのホロコースト(大量虐殺)。
これだけである程度、映画の内容が察せられる。
が、本作は少し別世界に導き、極限状態の中で生き抜く人間のぬくもりを伝えた。
題名からして、この時代を描いたポーランド映画といえば、アンジェイ・ワイダ監督の『地下水道』(1956年)を思い浮かべる。
対独ゲリラ戦に挑む市民軍の最期に迫った力作だった。
本作は舞台設定が同じだが、様相が異なる。
下水修理業を営むポーランド人の中年男ソハが、11人のユダヤ人を地下水道に匿うという物語だ。
この男、ゆめゆめ聖人君子ではない。
裏では窃盗や詐欺を働く狡猾な人物。
ユダヤ人を金づると見なし、日銭欲しさに彼らを下水道に連れ込むのだ。
そこが核となる。
ユダヤ人もかなり身勝手。
金で全て解決できると思っている男もいるし、文句ばかり言う不倫のカップルもいる。
劣悪な状況下で、エゴがぶつかり合う。
そんな人間臭い人物がドラマを織り成す。
だからより一層、現実味を帯びる。
ポーランド語やイディッシュ語(東欧ユダヤ人の言語)など4か国語が飛び交うのもそれを裏打ちする。
金銭契約で結ばれたソハとユダヤ人たちとの関係がどう転化するのか。
長回しの映像でその動向に肉迫する。
密閉された空間だけに観る者も逃げ場がない。
彼らと一体化してしまう。
監督はポーランド映画界の中軸アグニェシュカ・ホランド。
彼女の父親はユダヤ人で、ワルシャワのゲットーで亡くなった。
そのことが本作で忍耐、恐怖、勇気、情、絆を濃厚にあぶり出させたのだろう。
当時、同国には人口の1割、約300万人のユダヤ人がいた。
保身が優先し、彼らを救済できなかったポーランド人の心の痛みがそこはかとなく感じられた。
2時間25分。
★★★★
☆大阪:29日 テアトル梅田、神戸:10月27日 シネ・リーブル神戸、京都:近日 京都シネマ
(日本経済新聞2012年9月28日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)