武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

闇の中のぬくもり~ポーランド映画『ソハの地下水道』

投稿日:2012年9月29日 更新日:

 

Ⓒ 2011 Schmidtz Katze Filmkollektiv GmbH, Studio Filmowe Zebra, Hidden Films Inc. All Rights Reserved

ポーランド映画『ソハの地下水道』がきょうから公開されます。

 

昨年、ポーランドを訪れ、第2次大戦の生々しい傷跡を見てきただけに、この映画はグッと胸に突き刺さりました。

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

第2次大戦中のユダヤ人に対するナチス・ドイツのホロコースト(大量虐殺)。

 

これだけである程度、映画の内容が察せられる。

 

が、本作は少し別世界に導き、極限状態の中で生き抜く人間のぬくもりを伝えた。

 

題名からして、この時代を描いたポーランド映画といえば、アンジェイ・ワイダ監督の『地下水道』(1956年)を思い浮かべる。

 

対独ゲリラ戦に挑む市民軍の最期に迫った力作だった。

 

本作は舞台設定が同じだが、様相が異なる。

 

下水修理業を営むポーランド人の中年男ソハが、11人のユダヤ人を地下水道に匿うという物語だ。

 

この男、ゆめゆめ聖人君子ではない。

 

裏では窃盗や詐欺を働く狡猾な人物。

 

ユダヤ人を金づると見なし、日銭欲しさに彼らを下水道に連れ込むのだ。

 

そこが核となる。

 

ユダヤ人もかなり身勝手。

 

金で全て解決できると思っている男もいるし、文句ばかり言う不倫のカップルもいる。

 

劣悪な状況下で、エゴがぶつかり合う。

 

そんな人間臭い人物がドラマを織り成す。

 

だからより一層、現実味を帯びる。

 

ポーランド語やイディッシュ語(東欧ユダヤ人の言語)など4か国語が飛び交うのもそれを裏打ちする。

 

金銭契約で結ばれたソハとユダヤ人たちとの関係がどう転化するのか。

 

長回しの映像でその動向に肉迫する。

 

密閉された空間だけに観る者も逃げ場がない。

 

彼らと一体化してしまう。

 

監督はポーランド映画界の中軸アグニェシュカ・ホランド。

 

彼女の父親はユダヤ人で、ワルシャワのゲットーで亡くなった。

 

そのことが本作で忍耐、恐怖、勇気、情、絆を濃厚にあぶり出させたのだろう。

 

当時、同国には人口の1割、約300万人のユダヤ人がいた。

 

保身が優先し、彼らを救済できなかったポーランド人の心の痛みがそこはかとなく感じられた。

 

2時間25分。

 

★★★★

 

☆大阪:29日 テアトル梅田、神戸:10月27日 シネ・リーブル神戸、京都:近日 京都シネマ

 

(日本経済新聞2012年9月28日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

ウイスキー・フェスティバルで講演した『映画とウイスキー』を再現

ウイスキー・フェスティバルで講演した『映画とウイスキー』を再現

☆プロローグ  「君の瞳に乾杯!」   映画の最高の名ゼリフですね。   ご存知、ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンが共演した『カサブランカ』(1942年)で、ボガート …

『時代劇は死なず ちゃんばら美学考』、7日~テアトル梅田で公開!

『時代劇は死なず ちゃんばら美学考』、7日~テアトル梅田で公開!

『時代劇は死なず ちゃんばら美学考』   何とも魅惑的なタイトル~! 時代劇&ちゃんばら……。   昨今、陰が薄くなってきた感がありますが、アメリカ映画で西部劇が再び製作されている …

おおさかシネマフェスティバル2013

おおさかシネマフェスティバル2013

春の訪れを知らせる『おおさかシネマフェスティバル2013~映画ファンのための映画まつり』が今日、大阪・法円坂の大阪歴史博物館で開催されました。   1975年からなので、今年で38回目。 & …

画家、藤田嗣治が生きた2つの時代、日本映画『FOUJITA』

画家、藤田嗣治が生きた2つの時代、日本映画『FOUJITA』

昨夜は、大阪・テイジンホールで開催された盲導犬チャリティーコンサートでした。   今回でFinal。 そのせいか、満席でした。   ちょかBandは前座で大きな笑いを取り、めちゃ盛 …

報道の自由を高らかに謳う~米映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』

報道の自由を高らかに謳う~米映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』

ペンの力を侮るなかれ。 まさにこの文言を映像化した作品だった。 今年のアカデミー賞では無冠に終わったものの、実話を忠実に再現した骨太な社会派映画。 米国メディア界の現状を憂うスティーヴン・スピルバーグ …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。