武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

耐える勇気を切々と描いた野球映画~『42 世界を変えた男』

投稿日:2013年11月1日 更新日:

© 2013 LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.

今季の阪神タイガースはさておき、野球が好きです。

もちろん野球映画も。

米大リーグ史上、欠かせない選手を主人公にした映画が今日から公開されます。

     ☆     ☆     ☆     ☆

ベーブ・ルースやルー・ゲーリッグといった伝説的な米大リーガーの映画がこれまで何本も作られてきた。

その中で重要な人物が抜けていた。

黒人のジャッキー・ロビンソン。

彼の背番号「42」が大リーグで唯一、全球団共通の永久欠番になった理由を掘り下げる。

伝記物ではない。

黒人リーグからブルックリン・ドジャースでメジャーデビューした2年間(1945~47年)に的を絞った。

かつて大リーグに黒人選手が在籍していたそうだが、ロビンソンへの風当たりは強烈だった。

周りのプレーヤーは全て白人。

チームメートはもとより、ファン、他球団、マスメディアまでもが彼の出場をあからさまに嫌悪し、拒否する。

観客席から聞くに耐えがたい野次が飛び交い、脅迫状もどっさり届く。

そんな状況下、黙々と野球に没頭するロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)。

その真摯な姿は後年の公民権運動への布石となった。

映画はしかし、政治性を前面に押し出さない。

耐える勇気。

やり返さない勇気。

入団時、球団オーナーのリッキー(ハリソン・フォード)から放たれた箴言をいかに実践したか。

そこをつぶさに描き上げる。

気高い闘志が球場の内外に伝播し、硬直化した空気を徐々に和らげていく。

正直、胸が打たれた。

脚本も執筆したブライアン・ヘルゲランド監督の徹底取材と奇をてらわない演出が存分に生かされている。

ビジネスライクな面を覗かせながらも、終始、人道的な言動を貫くリッキーを美化しすぎた感がある。

とはいえ、妻レイチェル(ニコール・ベハーリー)や黒人記者スミス(アンドレ・ホランド)以上に、稀有な選手を支えた人物として計り知れない存在感を示した。

至近距離での撮影が際立つ試合のシーン。

野球映画の醍醐味はやはりそこにあると改めて実感した。

2時間8分

★★★★(見逃せない)

☆11月1日(金)大阪ステーションシネマ他全国ロードショー

(日本経済新聞2013年11月1日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

南大阪・泉北ニュータウンの酒肆 BAR KANEDAでのトークライブ~(^_-)-☆

南大阪・泉北ニュータウンの酒肆 BAR KANEDAでのトークライブ~(^_-)-☆

昨夜は南大阪・和泉市にある酒肆 BAR KANEDA酒肆で新刊『ウイスキー アンド シネマ 2 心も酔わせる名優たち』(淡交社)のトークライブでした。 トークライブは、隆祥館書店(中央区谷町六丁目)⇒ …

3月31日(日)、JSAの講演会『映画で見るSCOTLAND!』、乞うご期待を!

3月31日(日)、JSAの講演会『映画で見るSCOTLAND!』、乞うご期待を!

『映画で見るSCOTLAND!』――。 JSA(日本スコットランド交流協会)関西支部のイベントとして、3月31日(日)、こんなタイトルでお話しします。 『ブレイブハート』『ロブ・ロイ/ロマンに生きた男 …

巨匠ニキータ・ミハルコフが見据えた戦争の悲劇~『戦火のナージャ』

巨匠ニキータ・ミハルコフが見据えた戦争の悲劇~『戦火のナージャ』

(C)2010,GOLDEN EAGLE ロシア映画界を代表するニキータ・ミハルコフ監督が戦争巨編を放った。 これまでタブーだったスターリンの大粛清にメスを入れ、古き良きロシアへの郷愁を映像に焼き付け …

周防正行監督の新境地~『ダンシング・チャップリン』

周防正行監督の新境地~『ダンシング・チャップリン』

余震が多いですね。 一体、いつまで続くのでしょうか。 自然よ、もうこれ以上、被災地をいじめないでほしい~!! そう願わざるを得ない心境です。 大学の講義を終え、そんなことを考えながら、地下鉄に乗ると、 …

『大阪「映画」事始め』、各メディアで続々、紹介されています~!

『大阪「映画」事始め』、各メディアで続々、紹介されています~!

またまた拙著『大阪「映画」事始め』(彩流社)に絡む投稿で申し訳ありません~(^^;)   ほんま、しつこいですねぇ~(笑)   今日の朝日新聞夕刊に本の紹介、大阪映画サークルの機関 …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。