今日から封切られる『さよなら渓谷』。
ある意味、壮絶な映画でした。
グイグイ引き込まれていきます。
2人の関係を明かせば、もっとすんなりと原稿を書けたのですが、ここはあえて種明かしをしませんでした。
書くのが難しかった……(☆_☆)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
男女の複雑なひだ。
この永遠のテーマに真っ向から切り込んだ。
白黒はっきりつけず、グレーの中でうごめく人間模様をサスペンスタッチで綴る作家、吉田修一の小説を大森立嗣監督が稀代のラブストーリーとして映画化した。
のどかな田舎町で暮らす俊介(大西信満)とかなこ(真木よう子)。
見た目はごく普通の夫婦である。
その実像がじんわりとスリリングに暴かれていく。
傲慢さを際立せるかなこに対し、俊介は奴隷のようにひたすら従うだけ。
なぜこんな風になったのか。
過去に何があったのか。
次々に湧き出る疑問がドラマを小気味よく紡ぐ。
それを紐解くのが週刊誌記者の渡辺(大森南朋)。
隣家の母親によるわが子殺害事件を取材する過程で彼らと関わりを持つ。
家庭不和に悩み、倦怠感をまき散らすこの中年男が物語の舵取り役という設定が面白い。
渡辺が関係者に当っていくうち、15年前の忌まわしい出来事にたどり着く。
それが全ての原点だ。
種明かしになるので、ここではこれ以上書かない。
まずあり得ないシチュエーションとだけは言っておく。
それでも運命の糸が2人を結びつける。
両者の間で交錯する復讐心、恨み、同情、懺悔心……。
その中でもがきながら生き抜く姿が猛烈に哀しい。
双方とも壮絶なしがらみを抱えている。
それゆえ建前なしの本音がぶつかり合う。
そこに潜んでいるであろう〈極限の愛〉を、大森監督が時には濃厚な演出を盛り込んであぶり出す。
真木の繊細でクールな演技が光る。
言葉少なに、心の揺らめきを態度と顔の表情で表現していた。
見事だ。
夫を見る猛獣のような眼差し。
鳥肌が立った。
「幸せになるために一緒にいるのではない」
このやるせない言葉を否定しようとするラストに救われた。
1時間57分
★★★★(見逃せない)
☆6月22日(土)より、シネ・リーブル梅田/T・ジョイ京都/シネ・リーブル神戸にてロードショー!
(日本経済新聞2013年6月21日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)