武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

クリント・イーストウッドが巧演~『人生の特等席』

投稿日:2012年11月20日 更新日:

(C) 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

『人生の特等席』という邦題にまず惹かれますね。

 

懐かしいアメリカ映画、そんな印象を受けました。

 

拙文をどうぞ~(^o^)v

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

この人の主演映画とあらば、ぜひ観てみたい。

 

そう思わせる俳優の1人、クリント・イーストウッドが老境の滋味な男を巧演した。

 

野球を通して親子の絆を描いた、いかにもアメリカ映画らしい家族ドラマだ。

 

イーストウッドが撮った『グラン・トリノ』(2008年)で、自ら主演した老人が壮絶な最期を見せた。

 

それを機に俳優業を辞めると公言したが、本作のストーリーを気に入り、今回の出番と相成った。

 

監督は愛弟子のロバート・ロレンツ。

 

演じたのは大リーグのスカウトマン。

 

データ主義の時代にあって、ガスという男は現場主義を貫き、選手の一挙手一投足を見て、有望株を発掘してきた。

 

「化石」と揶揄されようが、自分流を変えない。

 

頑固一徹、偏屈な独居老人。

 

昨今、得意とする役どころだ。

 

82歳の重みと孤愁がにじみ出ている。

 

球場で黙々とスコアをつける姿は実に様になっていた。

 

1人娘のミッキー(エイミー・アダムス)は野球一筋の父を反面教師にし、弁護士として活躍している。

 

別世界に生きる親子。

 

2人が会えば、必ずいがみ合う。

 

若い選手の技術やセンスを直感で看破する才があるのに、一番身近なわが子の心が読めない。

 

そのギャップが哀しくもあり、映画はそこをしつこく突く。

 

水と油のような父娘。

 

いかに歩み寄るのか。その手立てとして、ガスの最後のスカウトにミッキーが付き添うという展開を用意する。

 

道中、2人のしがらみや確執が浮き彫りにされる。

 

非常にわかりやすく、予定調和的な内容だ。

 

詰めも甘いと感じるだろう。

 

しかしそれを承知の上で納得させる力がこの作品にはある。

 

バットに球が当たる音を聞き、打者の技能がわかる場面がことさら印象的だった。

 

目に見えないところに真理がある。

 

家族の関係もそうに違いないと思った。

 

1時間51分

 

★★★

 

☆23日から全国ロードショー

 

(日本経済新聞2012年11月16日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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プロフィール

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。