武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

大阪

映画の地を訪ねて(9)~大阪・法善寺 『夫婦善哉』

投稿日:2011年11月14日 更新日:

きのう、うちの近くのスタジオでちょかBandの練習をしました。
練習ばかりしています。
本番(20日)が目と鼻の先に迫ってきましたからね。
強力サポートメンバーが加わり、3人で15曲を通しでやりました。
ハモリが入ったり、カホンの軽快なリズムが刻まれたりして、サウンドに広がりが出てきた。
何でもええ方にしか考えません(笑)。
で、ちょかBandとは全く関係なく、『映画の地を歩く』のエッセーです。
今回は地元、大阪は法善寺。
映画作品はズバリ、『夫婦善哉』です。
     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆
夫婦善哉
「2人で濡れて行こ」
「そやな、ええ道行や」
ダメ男丸出しの柳吉(森繁久弥)としっかり者の蝶子(淡島千景)が互いの肩に手を回し、襟巻きを羽織って境内から足早に去っていく。
『夫婦善哉』(1955年)のラストシーンがかもし出す濃厚な浪花情緒に、生粋の大阪人であるぼくはどうしようもなく陶酔してしまう。
舞台はチラホラと小雪の舞うミナミの法善寺(大阪市中央区)。
大阪をこよなく愛した作家、織田作之助が姉夫婦をモデルに編んだ中編小説を、名匠・豊田四郎監督が映画化した。
切っても切れない2人のけったいな生き様を軽妙に綴った夫婦(内縁だが)の物語。
道修町生まれの脚本家、八住利雄が考案した「頼りにしてまっせ、おばはん」の名ゼリフが大流行し、森繁と淡島の丁々発止のやり取りに観客が酔った。
まさに大阪映画の定番といえる作品だ。
法善寺に足を運ぶと、大勢の観光客や参拝者がコケ生した水掛不動(西向不動尊)に手を合わせていた。
法善寺(3)
「海外の人がめっきり増えましたなぁ」と寺務所の女性。
境内に隣接するゼンザイ屋は映画にも登場したが、当時とは場所が異なり、経営母体も替わっている。
法善寺(1)
そもそも銀幕に映し出された法善寺界隈は、東京・砧にある東宝撮影所の特設スタジオに組み立てられたオープンセットだった。
大阪でロケしようにも、戦災でミナミ一帯が焼け野原となり、戦前の世界が消失していたからだ。
真夏の東京で、真冬の大阪のシーンが撮られたのが面白い。
『夫婦善哉』と言えば、すぐ法善寺をイメージするが、この界隈が映るのはわずか12分ほどで、上映時間(2時間1分)のほんの一部。
なのに存在感が際立つ。
『わが町』(56年)、『大阪物語』(99年)など他の映画でも法善寺は独特な彩を添えてきた。
それだけ絵になるスポットなのだろう。
法善寺(2)
2002年と翌年、火災に見舞われた。
しかし見事に復興し、小料理店、焼き鳥屋、バーなどが軒を連ねる狭い横丁はちょっぴり猥雑な周りの空気から隔絶され、古き良き時代の大阪を保っている。
このレトロな空間に浸ると、まるで劇場に来た、そんなハレの場にいるような錯覚にすら陥る。
大阪は元来、路地裏の街。
その象徴ともいえる場所が法善寺界隈なのだ。
無味乾燥な街並みが多いだけに、強くそう思う。
この地を舞台にした人情モノの映画ができないものか。
そんなことを考えながら、ゼンザイ屋の引き戸を開けた。
(読売新聞2011年1月25日朝刊『わいず倶楽部』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。