武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

スコットランド一人旅(2024.5.26~6.6) 日記

スコットランド一人旅(4)

投稿日:

旅の4日目(29日)にして、やっと1つ目の目的を達成できました〜!

ところが、それまでに、「えらいこっちゃ」があったんです。

朝の気温は12度、雨降るアバディーンからバスで北の港町フレイザーバラ(Fraserburgh)へ。

ダブルデッカーの2階最前列の特等席に陣取り、ルンルン気分でした。

フレイザーバラに到着後、予約していたプチホテルに荷物を預けようと、所在地を確かめると、何と郊外でした〜!

あれっ、おかしいなぁ、街中のはずなんやけど……、勘違いしてたんやろか。

半泣きになりながら、たまたま通りを歩いていた2人連れの女性に訊くと――。

「めちゃ遠いわ。トランクを引きずって行くのはとても無理、無理」

えらいこっちゃ〜

半泣きが本泣きになりそうでした。

「バスで行きはったらどないですか。バスの時間を調べたげる」

スマホを操作する親切なお2人さん。

ありがたい〜

「1時間後にバスがありますよ」

あちゃ~、実は1時間後、別のバスで目的地に行く予定だったんです。

何せ1日に1便のバスなので、これを逃すと、目的達成ならず……。

その旨を伝えると、「タクシーを呼びましょう」。

そして、彼女たちが手分けし、スマホでいろいろタクシー(個人タクシー)に電話してくれたんですが、どこもなかなか繋がらない。

ガックリ〜。

ところが諦めかけた時、「繋がった〜!」。

やった〜!!

しばらくして女性ドライバーのタクシーが到着。

2人連れは、ぼくがタクシーで去ってい行くまで、ずっと見送ってくれはりました。

まるで天使のようなお2人、ありがとうございました〜!

気分が晴れ、そのタクシーでホテルに着くと、あら不思議、ドアが閉まっていて、誰もいない。

えっ!

個人経営の宿で、ドライバーが何とかオーナーを探し、電話してくれると、「夕方の4時からでないとオープンしないそうです」。

えらいこっちゃ

手持ちの予約確認書を見ると、チェックインは午後4時からと明記されていました。

所在地といい、チェックイン時間といい、詰めが甘かった(涙)

荷物、どないしょ?

バスの時間がどんどん迫ってくる。

よっしゃ、こうなったら、荷物をどこかのパブで預かってもらおう〜と思った時、ドライバーがグッドアイデアを提案してくれはりました。

「荷物をタクシーのトランクに入れたまま、目的地に行きましょう。安くしときます」

わっ、ありがたい〜!

この際、少々、出費してもしゃあないわ。

で、目的地に向かってゴー。

  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

ドライバーは、ダイアナさんというポーランド人女性で、3人の子を持つ42歳のママさん。

スコットランド人の英語より遥かに耳に親しみやすく、ゆっくりゆっくり喋ってくれはりました。

彼女がポーランド北部の港湾都市グタンスクの出身とわかり、

「以前、行ったことありますよ。それにアンジェイ・ワイダ監督にインタビューしましたよ」と答えると、

「えっ、そうなんですか !」

それからグッと距離感が狭まり、ぼくの片言大阪弁英語とポーランド語訛りの英語で楽しい会話と相成りました。

「こっちの人、早口になると、さっぱりわからへん。英語とちゃうみたい、ハハハ(笑)」

「ハギスは食べれませんねん」

「ポーランドの料理、美味しかったでしょ」

そうこうしているうちに到達したところが、イギリス映画『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』(1985年)のロケ地、ペナン(Pennan)でした。

北海岸に面した小さな漁村です。

映画は、仕事一辺倒で心が涸れてきた米大企業のエリート社員がやむなく出張でスコットランドへ行くのですが、現地の素朴な人たちの温情と素晴らしい大自然に触れ、人生をリフレッシュさせる〜という筋書きです。

米企業のCEO役にハリウッドの大物俳優バート・ランカスターが扮していました。

グラスゴー出身のビル・フォーサイス監督による珠玉のヒューマンドラマ〜 。

古巣新聞社でかなりストレスに苛まれていた時期にリアルで観て、主人公に共感し、感涙したのを覚えています。

『ブレイブ・ハート』や『トレインスポッティング』などスコットランド舞台の映画は少なくありませんが、何と言っても、ぼくにとってこの作品がベスト1〜!

だから、死ぬまでにロケ地を訪ねたかったんです。

未見の方、ぜひご覧になってくださいね。

きっと心に染み入ると思いますよ〜。

ダイアナさんに映画のことを言うと、「ごめん、観てませんわ」。

そうなんや。

幸い天候が回復しつつあり、ラッキー。

主人公がアメリカの会社に連絡していた赤い公衆電話ボックスは健在でした!

当時はアナログ時代でしたからね。

この電話ボックス、映画のために設置された「大道具」なんですが、作品の象徴的な存在だったので、そのまま保存され、今ではちゃんと使えるようになっているみたい(笑)

その後ろの宿屋「ペナン・イン」も残っていました。

何と素晴らしい〜!

潮風に当たりながら、しばし海辺で佇んでいると、20代後半だったぼくの若かりし頃の思い出が走馬灯のごとく甦ってきました。

ここにやって来て、ホンマによかった〜。

1つ目の目的を成し遂げることができました。

うれしくなり、ダイアナさんとツーショット!

  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

超満足感を抱き、フレイザーバラに戻り、代金を払うと、彼女が「手荷物、どうしはりますのん?」。

う〜ん、困った。

こんなん引きずって街を散策できませんがな。

眉間に皺を寄せていると、助け舟を出してくれました。

「このままトランクに入れておきましょ。だからご自由に観光してください。ホテルに行く時、電話をお願いします。飛んでいきますから」

あ、あ、ありがたい!

この人も天使だった〜!!

そんなわけで、ショルダーバッグだけで街を散策していると、あのトーマス・グラバーの生家を見つけました。

6歳でイングランドへ転居するまでここで暮らしていたんですね。

今は小さな記念公園になっているんですが、なぜか鉄柵の門にカギがかかっており、中へ入れませんでした。

残念〜

でも、昨日に続き、スコットランドのグラバー邸を訪れることができてよかった、よかった。

隣が「グラバー」という名のフィッシュ・アンド・チップス店でした。

このあと灯台ミュージアムや港を見て回り、パブで小休止。

  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

パブからダイアナさんに電話すると、すぐに来てくれました。

そして予約していた郊外のプチホテルへ行くと、恰幅ある女性オーナーの言葉に驚かされました。

「もう満室で、泊まれませんよ」

えっ!  予約してあるのに。

予約シートを渡すと、オーナーが目を白黒させ、ちょっとパニクった感じで超早口で喋り出しました。

全くちんぷんかんぷん。

ダイアナさんが時々、オーナーの話を中断させ、ぼくにゆっくりわかりやすく教えてくれました。

スコットランド英語の通訳ですわ (笑)

けったいな状況でした。

要は、ホテル予約サイトからホテルに情報が入っていなかった〜ということ。

そんなことあるんかいな。

すでに課金されているのに……。

しかし、「えらいこっちゃ」に慣れてきたので、ぼくは不思議と冷静でした(笑)

「泊まれません」の一点張りだったオーナーに、ダイアナさんが「それはおかしいです。ホテル代を支払っているんですよ」とぼくに代わって掛け合ってくれはりました。

当事者のぼくは蚊帳の外。

やがて、オーナーが「わかりました」と街中のホテルを予約するようスタッフに指示し、その宿泊費を肩代わりしてくれることに。

予約サイトに不都合があったので、あとで料金を請求するみたい。

「あなたは何も悪くありませんものね」

この言葉はちゃんと理解できました。

で、再びタクシーで街中へ戻り、先ほど予約したホテルへ。

そこで、ダイアナさんと別れましたが、「何かトラブルがあれば、いつでも連絡してください」と言った彼女の言葉が忘れられません。

その後、ぼくはオーナーと一緒にホテルに入り、彼女自らチェックインしてくれはりました。

な、な、何という展開〜!

「ホテルとして当然のことです」

おそらく早口でそんなことを言うてはったと思います。

ここは町で一番のホテルなので、何だか得したみたい〜(笑)

それもこれも、ダイアナさんが掛け合ってくれはったからです。

ぼく1人なら右往左往していたでしょう。

ホンマにありがとうございました!!

そして、「じゃあ、素敵な旅を〜 」と颯爽と去って行ったオーナーにも、ありがとうございました!!

カッコよかったな〜。

この女性も天使でした〜

写真を撮れなかったのが残念(笑)

何でこんなええ人ばっかりやねん。

天使がいっぱいいるスコットランド、ますます好きになってきました〜💛

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プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。