三島由紀夫の映画が今日から封切られています。
いろんな意味で、興味深い作品でした。
ぼくには非常に懐かしい事件でしたが……。
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©若松プロダクション
衝撃的だった。
1970年11月25日、作家の三島由紀夫が東京・市ヶ谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺を図った事件。
かくも過激な行動に走った、その真意は何だったのか。
若松孝二監督が昭和の一断面を切り取った。
凄惨なリンチ事件と銃撃戦に迫った『実録・連合赤軍』(2008年)、一組の夫婦を通して戦争の愚劣さをあぶり出した『キャタピラー』(10年)。
それに続く昭和三部作の完結編として、稀代の美文家を選んだ。
文学の世界で右傾化を色濃くしていた三島(井浦新)が、民族派の学生を集め、民兵組織「楯の会」を結成。©若松プロダクション
社会に吹き荒れる学生運動に真っ向から対立し、自衛隊の国軍化を訴える。
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三島も、彼に惹かれる若者たちも驚くほど純真だ。
熱情が迸っている。
大義のために、そして祖国のために死ぬことを厭わない。
そこまでストイック(禁欲的)になれるものなのか。
軍服を着た彼らの鋭い眼差しに胸を突かれた。
カメラは執拗にそれを追う。
とりわけ学生長、森田必勝(満島真之介)の存在が大きい。
彼のあまりにも直情的な気概に三島が追い詰められ、後戻りできなくなる。
連合赤軍やオウムとよく似た構図。
いつの時代にも見られる〈負の連鎖〉だ。
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自衛隊に入って肉体を鍛え、最期まで武士たらんとし、45歳で散った三島。
そんな彼を、ある種、醒めた目で見る妻、瑤子(寺島しのぶ)の表情が印象深い。
やんちゃなわが子を見守る母親のようにも映る。
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イデオロギーの観点からすると、抵抗を覚えるかもしれない。
本作はしかし、それを超越し、人間の内面と時代の重みを凝視した。
反体制的な視点を持つ若松監督があえてこの題材を映画化したのも、そこにある。
当然、英雄視はしていない。
激動の昭和を駆け抜けた1人の男に等距離で寄り添っているだけである。
時間59分
★★★★
●公開日程
6月2日からテアトル梅田、第七芸術劇場、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 にて公開
(日本経済新聞2012年6月1日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)
昭和の一断面~映画『11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』
投稿日:2012年6月2日 更新日:
執筆者:admin