時の隔たりを超えて結びつく2つのドラマ。
よくある設定だが、本作は絶妙な語り口でぐいぐい引きずり込んでいく。
児童文学を思わせる世界観にも心がくすぐられた。
1977年、まだ見ぬ父親に会いたくてミネソタの田舎町からニューヨークへ向かった少年ベン(オークス・フェグリー)。
その50年前、憧れの映画女優リリアン(ジュリアン・ムーア)に接見するためニュージャージーから同じ大都会を目指した少女ローズ(ミリセント・シモンズ)。
ベンは母親を交通事故で亡くし、計り知れない喪失感を抱いている。
豪邸で暮らすローズは父親とそりが合わず、孤独な日々を送っている。
共に自分の居場所がない……。
さらに少年は落雷で耳が聞こえなくなり、少女は生まれながらの聴覚障害者。
相似点を持つ2人がニューヨークの自然史博物館を舞台に奇抜な物語を紡ぎ出す。
時代性を顕著にするため、片やカラー、片やモノクロで交互に描かれる。
ローズの話は無声映画を観ているようだ。
2つの物語がシンクロしていくところが非常にスリリングで、かつ心地よい。
トッド・ヘインズ監督の演出は巧妙に計算し尽くされている。
古今東西の珍妙な展示品を集めた「驚異の部屋」へと2人を誘うプロセスが特に秀逸だった。
ベンが父親探しの手がかりとした書店の店主、彼をエスコ―トする闊達な少年、ローズの思慮深い実兄。
そしてジュリアン・ムーアが二役で扮した映画女優と心優しい老女。
脇の布陣が手堅い。
デビッド・ボウイの名曲『スペース・オデュセイ』も実に効果的に使われていた。
ローズに扮した子役シモンズは実際に耳が不自由だ。
緊張感を伴う不安な少女の心象を観る者に体感してもらおうと起用した。
その狙いが見事に的中。
子供が旅を通して成長する冒険譚。
ラストの清々しさに胸が熱くなった。
1時間57分
★★★★(見逃せない)
☆シネリーブル梅田ほかで公開中
(日本経済新聞夕刊に2018年4月6日に掲載。許可のない転載は禁じます)