ペンの力を侮るなかれ。
まさにこの文言を映像化した作品だった。
今年のアカデミー賞では無冠に終わったものの、実話を忠実に再現した骨太な社会派映画。
米国メディア界の現状を憂うスティーヴン・スピルバーグ監督の並々ならぬ気概が伝わってきた。
ニクソン政権下の1971年、ニューヨーク・タイムズ紙が世紀の大スクープを放った。
ベトナム戦争に絡む政府の虚偽と欺瞞が盛り込まれた国防総省の極秘文書を入手し、公表したのだ。
映画はしかし、記事を抜かれたライバル紙のワシントン・ポストの方に焦点を当てる。
政権を激震させる内容だけに絶対に後追いせねばならない。
そこに政府から「圧力」がかかる。
情報入手と記事掲載に躍起になる編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)。
経営者として慎重にならざるを得ない社主のキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)。
2人の攻防が物語の軸となる。
キャサリンは米国新聞史上初の女性発行人。
しかも経営基盤強化のため株式公開直前の時期とあって、ドラマ性がいっそう高まる。
後発とはいえ、政府にとって不都合な真実を同紙が公表すれば、社の屋台骨が揺らぐ恐れもある。
編集と経営。
両者のせめぎ合いが非常にスリリングだ。
トランプ政権にとって好ましからざるニュースは「フェイク(ウソ)」と切り捨てられる。
そんな状況を見かね、スピルバーグ監督が今のこの時期にこそと本作のメガホンを取った。
報道の自由を高らかに謳った最高裁判所の採決に映画のテーマが凝縮されていた。
ジャーナリズムの根幹は権力の監視。
このことを改めて思い知らされた。
ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件へとつながるラストが深い余韻を生む。
本作の製作意図を日本のメディア界も真摯に受け止めてほしいと思った。
1時間56分
★★★★★(今年有数の傑作)
☆30日から全国ロードショー
(日本経済新聞夕刊に2018年3月30日に掲載。許可のない転載は禁じます)
武部さん 私も昨日30日にペンタゴンペイパーを観てきました。大変感動を覚えるような映画でした。私は朝日新聞時代にニュウヨークの駐在員を6年やっておりました。ワシントンポストにも訪れていましたので実にうまく編集局の雰囲気の再現をしているのでびっくりでした。印刷の現場もうまく再現しており見事なものです。皆にも見るように薦めます。奥田幸治郎
奥田さん 返信が遅れまして申し訳ございません。
「ペンタゴンペーパーズ~」、ご覧になられましたか。見応えありましたね。NYに駐在されておられたんですね。
「報道の自由」と「権力の監視がジャーナリズムの大きな根幹」。映画のテーマはこの2つでした。
昨今のモリカケ問題の朝日新聞の踏ん張りはまさにそれを地で行っていますね。
とことんやってほしいです。