心がざわめく問題作を撮り続けるオーストリアの名匠ミヒャエル・ハネケ監督。
老夫婦の物語『愛、アムール』(2012年)から5年ぶりの新作はブルジョワ家庭に焦点を当て、家族の軋みをあぶり出した。
冒頭からスマートフォンで撮影された粗い動画。
これは尋常ではないぞと思わせる。
案の定、大きな伏線になっていた。
北フランスで暮らすロラン家。家長のジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニアン)は建設業のオーナーを引退し、悠々自適の日々。
どこか寂しげなところが気になる。
稼業を引き継ぐやり手の娘アンヌ(イザベル・ユペール)と医師の息子トマ(マチュー・カソヴィッソ)の家族が同居している。
孫もいるので、三世代家族だ。
一見、幸せそう。
しかし互いに無関心で、会話がほとんどない。
やがて各人の実像や秘密が浮き彫りになるにつれ、言いようのない不協和音が生じてくる。
こうした中、トマと先妻との間に生まれた娘エヴ(ファンティーヌ・アルドゥアン)が家族に加わり、一気にドラマが深化する。
彼女の繊細さ、不可解さ、不気味さになぜか惹かれる。
「孤独」「自殺未遂」という共通項からエヴと祖父が接近する。
そのプロセスが実にスリリング。
ストーリーを想定外に展開させる演出が効いている。
難民・移民の排斥問題、ポピュリズムと極右勢力の台頭……。
見ようによれば、閉塞感が強まる現在のヨーロッパ像をこの家族に置き換えているようにも思える。
他者への思いやりと寛容なる精神の希薄。
誰もが自己中心的。
そんな現状を憂うハネケ監督の切なる想いが映像の端々から伝わってくる。
題名が非常に意味深だが、衝撃的なラストシーンを観れば、納得するだろう。
本作を「笑劇」と位置付けた監督の真意も分かった。
1時間47分
★★★★(見逃せない)
☆3日からシネ・リーブル梅田、京都シネマ、角川シネマ有楽町など公開
(日本経済新聞夕刊に2018年3月2日に掲載。許可のない転載は禁じます)