殺し屋が出てくる映画は多々あれど、本作のように異国の地で疑似家族を作るケースは珍しい。
しかも逃亡劇。
想定外のシチュエーションと奇抜な登場人物が独特なアウトロー映画を生み出した。
監督のSABUは脚本も自身で手がけ、とことんオリジナルにこだわる。
作家性の強い人だけに、難解な作品と思われがちだが、どれも娯楽性に富んでいる。
この映画もしかり。
ロンはナイフを自在に操る、謎めいた孤高の殺し屋。
アジアを代表する台湾人俳優チャン・チェンが何ともニヒルに演じ切る。
この男が東京で台湾マフィアのボスの暗殺に失敗し、北関東の田舎へ逃亡する。
流れ着いたのがうら寂れ、見捨てられた町。
そこで8歳の少年と覚せい剤に溺れる台湾人の母親(イレブン・ヤオ)と出会う。
さらに世話好きな住人たちが絡んでくる。
フィルム・ノワール(犯罪映画)から一転、のどかな世界へ。
何という展開なのだ!
こういう流れがこの監督の真骨頂である。
料理が得意なロンは知らぬ間に牛肉麺(ニュウロウミェン)の屋台を出すハメになる。
もう喜劇としか言いようがない。
面白い。
少年との交流から母親を巻き込み、家族のようになっていく。
実にほほ笑ましい。
スピード感のある演出が売りなのに、ここではいたってスローペースだ。
チャン・チェンは終始、クール。
日本語を話せない役どころなので、セリフがほとんどない。
表情と仕草だけの演技がかえってシブさをかもし出していた。
このまま終わるはずがない。
いつ平穏な生活が破綻するのか。
それがある種の緊張感を生む。
そしてあっと驚く壮絶なクライマックスを迎えるのだ。
もう少しメリハリが欲しかった。
とはいえ、「シンプル・イズ・ベスト」を実感させる濃い映画だった。
2時間9分
★★★★(見逃せない)
☆16日から大阪・シネマート心斎橋ほか全国順次公開
(日本経済新聞夕刊に2017年12月15日に掲載。許可のない転載は禁じます)