「炎の人」で知られるオランダ人画家、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~1890年)。
名画に生の息吹を注ぎ、滋味深いドラマに仕上げた。
アニメを超越した画期的な作品だ。
ゴッホは37歳の時、銃で自殺したとされている。
しかし不自然な点が多く、その死は謎に包まれている。
ポーランドのアニメ映画監督ドロタ・コビエラが本作を企画。
英国人のヒュー・ウェルチマン監督と共同で脚本、演出に当たった。
美術館で見たことのある風景や人物……。
絵の具を塗り重ね、それらを描いた油絵がいきなり動き出し、言葉を発するのだから、びっくり仰天する。
物語の水先案内人がアルマンという青年。
ゴッホが出し忘れた弟テオ宛ての最期の手紙を郵便配達人の父親から託され、画家ゆかりの地を訪ね歩く。
そのうち死因に疑問を抱き、探偵ばりに真相解明に取り組む。
ミステリー風味を添えたスリリングな展開が実に心地よい。
アルマン役がダグラス・ブース、ゴッホ役がロベルト・グラチークといったように登場人物は俳優が演じている。
しかし銀幕では限りなく絵画に見える。
実写撮影した後、特殊な装置で画布に投影。
それを基に1枚1枚動きの異なる油彩画を描き、高解像度写真で撮っていった。
125人の絵描きがその作業に携わり、6万2450枚の絵画を創作した。
所々、挿入されるモノクロ水彩画の回想シーンが絶妙なメリハリをかもし出す。
こうした技術面に目が向きがちだが、ドラマ構成が非常にしっかりしている。
観終わったあと、ゴッホの人生を探訪でき、得も言われぬ満足感を抱いた。
「我々は自分たちの絵に語らせることしかできないのだ」
手紙に記されたゴッホの〈遺言〉を美術と映画の融合によって見事に実現させた。
素晴らしい!
1時間36分
★★★★★(今年有数の傑作)
☆大阪ステーションシティシネマほかで公開中
(日本経済新聞夕刊に2017年11月10日に掲載。許可のない転載は禁じます)