どん底状態にあえぐストリートミュージシャンの青年と猫の物語。
英国で話題になった実話の映画化で、実際に注目された猫が堂々と“主演”を張っている。
監督はロジャー・スポティスウッド。
ジェームズ(ルーク・トレッダウェイ)は音楽の道を歩むも、ドラッグに溺れ、今やホームレス。
更生プログラムに励みながら、日々、ゴミ箱をあさっている。
そんな青年がNPO団体にあてがわれた住居に茶トラの野良猫が迷い込む。
名はボブ。ケガを負ったその猫を彼が治療したことで距離がグンと狭まる。
さり気ない出会いが心地よい。
繊細な心を持つジェームズは傷つきやすい。
しかも孤独。
それを癒やしてくれるボブは単なるペットではなく、心を許せる相棒として絆を強めていく。
猫が登場する映画は結構、多い。
その中でこの猫と立ち位置がよく似ていたのがオードリー・ヘップバーン主演『ティファニーで朝食を』(1961年)の名無しの猫。
ともに主人公の分身的な存在だった。
常にボブと一緒にいるジェームズ。
ガールフレンドのベティ(ルタ・ゲドミンタス)の協力を得て、次第に再生していく。
特に父親との修復がほほ笑ましい。
ボブは招福猫そのものだ。
肩に愛猫を乗せ、雑誌「ビッグイシュー」を販売する光景が新聞に掲載され、一躍、時の人に。
5年前、本人の実体験を綴った本がベストセラーになった。
現在、推定11歳のボブは人間でいえば、60歳前後。
初老に入り、落ち着いた演技を披露している。
実の飼い主でない俳優にもよくなついていたのには驚いた。
本作は英国社会の断片を浮き彫りにしている。
しかしもう少し深く斬り込めば、ひと味違った社会派映画に仕上がっていたと思う。
ともあれ、空前の猫ブーム。
猫好きの人にとってボブはどのように映るのだろうか。
1時間43分
★★★(見応えあり)
☆8月26日(土)より大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹ほかで公開
配給:コムストック・グループ
(日本経済新聞夕刊に2017年8月25日に掲載。許可のない転載は禁じます)