涼風がそよぐ、そんな爽やかな映画だ。
公園そのものが主役で、そこにたおやかな音楽が絡む。
ファンタジックなポエムのような、それでいて芯のある青春ドラマに仕上がっていた。
東京の「井の頭公園」開園100周年記念映画。
この公園と全く縁のない大阪出身の瀬田なつき監督が感性豊かに映像を紡ぎ出した。
冒頭、満開の桜花の下、女子大生の純(橋本愛)が軽快に自転車のペダルをこぐ。
何とも淡い感触。
一気に映画の世界に引きずり込ませる。
公園脇のアパートで暮らす純は恋人に去られ、大学留年の危機にある。
全てがうまくいかない。
そんな彼女の元に女子高生のハル(永野芽郁)が訪れる。
亡き父親の過去を探るハルの謎めいたキャラクターと浮遊感が独特な彩りを添える。
永野の吹っ切れた演技がことさら印象深い。
やがて50年前に父親と恋人がテープに残した未完のラブソングが見つかる。
その女性の孫トキオ(染谷将太)を巻き込み、3人で曲を完成させる。
本筋に至るまでの経緯がやや複雑。
それでもしなやかに物語を形作っていく瀬田監督の演出は見事としか言いようがない。
1960年代に刻まれた青春時代の記憶と現在の情景が重層的に交錯する中、音楽がクロスオーバーしながら前面に浮き上がってくる。
全37曲。全編を包み込むサウンドが耳に心地よい。
ギターを弾き語る橋本の伸びやかな歌声が胸に響く。
ミュージカルをまねたシーンも添えられ、どこまでも自由で開放的な作風。
それが本作のエッセンスだ。
自然光を採り入れた映像はカラッと明るい。
軽やかさを強調させるため、風と草木の音を視覚的に描いたのも効果的だった。
気がつけば、公園、音楽、映像が一体化していた。
何だか夢見心地に浸れた気分。
不思議な映画である。
1時間58分。
★★★★(見逃せない)
☆シネ・リーブル梅田で公開中、13日から神戸国際松竹で公開
(日本経済新聞夕刊に2017年5月12日に掲載。許可のない転載は禁じます)