あの時、ああしておけばよかった……。
日々、後悔するのが世の常だが、そこに人の死が絡むとどうなるのか。
本作の主人公は自責の念と罪悪感にかられ、ストイックな行動に移す。
その姿を徹底的に追尾した異色サスペンス映画。
女医ジェニー(アデル・エネル)は臨時で町の診療所に勤務している。
診療時間が過ぎた午後8時、玄関のベルが鳴るも、取り次がない。
翌朝、近くで身元不明の少女が遺体で見つかった。
何と昨夜、ドアホンを押した人物だった。
ジェニーの心がざわめき立つ。
あの時、玄関を開けようとした若い研修医に「患者に振り回されたらだめ」と諫めただけに、いっそう胸が締めつけられる。
少女は何者なのだ。
なぜ診療所に駆け込んできたのか。
死因は?
脳裏に湧き出る疑問を晴らすべく、刑事顔負けに町の住人に聞いて回る。
ここからカメラはひたすら彼女に肉迫する。
監督はベルギーのジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟。
これまでの手法通り、感情を入れずドキュメンタリータッチで淡々と描いていく。
ジェニーは近々、大病院へ赴任する有能な医師だが、患者への接し方が事務的でクールだ。
そんな彼女のキャラクターと作品の画風が重なり、非常にさばさばした空気が映像に充満する。
聞き込みで重要な情報を入手しても無表情。
そこに違和感を持つかもしれない。
彼女はしかし、人との出会いによって確実に変わっていく。
それが監督の伝えたいところでもある。
前作『サンドラの週末』と同様、ヒロインに同調し、ぐいぐい引きずり込まれる。
長回しも効果的。
ただ、私生活に全く触れていない。
少し盛り込むと、作品に深みが出たと思うのだが……。
彼女が脅されながらも追求した事案に欧州が抱える社会問題が潜んでいる。
その点も頭に入れておきたい。
1時間46分
★★★★(見逃せない)
☆8日からテアトル梅田ほかで公開
(日本経済新聞夕刊に2017年4月7日に掲載。許可のない転載は禁じます)