社会派の名匠ケン・ローチ監督の〈怒り〉が伝わる入魂の一作。
社会的弱者に寄り添う姿勢は揺るがない。
本作ではセーフティーネットが機能していない現状を如実にあぶり出す。
昨年のカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞作。
英国の地方都市で暮らすブレイク(デイヴ・ジョーンズ)は腕の立つ59歳の大工。
妻を亡くし、独居生活をしている。
頑固そうだが、非常に実直な男だ。
心臓発作で仕事ができなくなり、国から雇用手当をもらっている。
しかし就労可能と審査された途端、手当てが打ち切られ、求職活動を強いられる。
といっても働き口がない。
精一杯、行動に移すも、複雑な手続きと役所の官僚的な対応に全て阻まれる。
職業安定所ではパソコンで登録できず、右往左往。
デジタルに不慣れな者ははじき出される。
まさに人間疎外。
もはやブラック・コメディーの域だ。
そんな彼が2人の子を抱え、日々の生活に困窮するシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)に手を差し伸べる。
自身、厳しい状況にあるのに……。
慈愛の精神と優しさに胸が締めつけられる。
彼らは必死になって生き抜いている。
しかも能力があるのに生かされず、空回りばかり。
それを自己責任で済ませていいのか。
そこをローチ監督はぐいぐい突いてくる。
80歳の監督は前作『ジミー、野を駆ける伝説』(2014)で引退表明したが、この問題は全世界共通のものと受け止め、使命感を持って臨んだ。
確かに熱い意気込みが感じられる。
ブレイクが放った言葉が脳裏から離れない。
「当たり前の権利がほしいだけ。私はそれ以上でも、それ以下でもない。人間だ」
これぞ魂の叫び声。
市井の人を描かせたら、この監督の右に出る人はいない。
改めてそう実感した。
1時間40分
★★★★(見逃せない)
☆18日からシネ・リーブル梅田ほか全国ロードショー
(日本経済新聞夕刊に2017年3月17日に掲載。許可のない転載は禁じます)