武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

映画

復活をめざす男の物語~『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

投稿日:

今年のアカデミー賞で4部門に輝いた作品です。

 

異色の内省的なドラマ。

 

見応えありますよ。

 

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

(c)2014 Twentieth Century Fox.

(c)2014 Twentieth Century Fox.

てっきり娯楽作と思いきや、完全に予想を覆された。

 

かつての栄光を今一度とカムバックを果たそうとする男の奮闘劇。

 

それもシュールに、かつシニカルに内面を掘り下げ、純度の高い異色ドラマに仕上げた。

 

リーガン(マイケル・キートン)は20年前、スーパーヒーロー映画「バードマン」の主役として大スターにのし上がった。

 

その後はしかし、鳴かず飛ばず。

 

私生活も破綻している。

 

映画ではなく、演劇に復活をかけるのがミソ。

 

米国の小説家レーモンド・カーヴァーの原作を自ら脚色、演出、主演するというのだ。

 

劇場はブロードウェイ。

 

愛されたいと願い、その愛をどこに求めればいいのか。

 

焦燥感に包まれ、正念場を迎える自身の思いを凝縮させた内容だが、最も舞台化しにくい題材である。

 

『バッドマン』で名を馳せたキートンがわが身に置き換えて演じているのがまた一興だった。

 

必死さを際立たせた熱い気迫の演技には圧倒される。

 

付き人にした元薬物依存症の娘(エマ・ストーン)、共演者の代役になったいけすけない実力派俳優(エドワード・ノートン)、悪魔のごとく主人公に負のオーラを注ぎ込むバードマン……。

 

彼らがリーガンを苛立たせ、物語を深化させる。

 

そこにアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の計算し尽された長回しの映像が見事に融合する。

 

一見、切れ目のないショットが最後までよどみなく続き、否が応でも緊張を強いられる。

 

それが妙に心地よい。

 

このカメラワークには脱帽だ。

 

相次ぐ障害をいかに乗り越え、上演にこぎつけるのか。

 

そこに映画は生きがいとは何かを突きつける。

 

有名になることは虚飾に過ぎないと言わんばかりに。

 

今年のアカデミー賞の作品、監督など4部門を受賞。こんな内省的な映画が評価されるとは……。

 

時代の変遷を実感した。

 

2時間

 

★★★★(見逃せない)

 

☆TOHOシネマズ梅田ほかで公開中

 

(日本経済新聞2015年4月10日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

 

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

タランティーノ監督が放つ濃厚密室ウエスタン~『ヘイトフル・エイト』

タランティーノ監督が放つ濃厚密室ウエスタン~『ヘイトフル・エイト』

  27日から公開されるクエンティン・タランティーノ監督の新作『ヘイトフル・ヘイト』はまたも西部劇。   それも密室ミステリーです。   いつものように、残酷で下品、差別 …

知人の映画研究家、吉田はるみさんが『アリスのいた映画史』(彩流社)を出版!

知人の映画研究家、吉田はるみさんが『アリスのいた映画史』(彩流社)を出版!

アリス・ギイ——。 世界初の女性映画監督なのに、彼女の存在も、どんな作品を撮ったのかも、ほとんど知られていません。 なぜか――?? ぼくの知人の映画研究家、吉田はるみさんがそこにメスを入れ、『アリスの …

心を癒すニャンコたち~『レンタネコ』

心を癒すニャンコたち~『レンタネコ』

『レンタネコ』という日本映画が今日から公開されています。 (C)2012 レンタネコ製作委員会 「かもめ食堂」(2006年)、「めがね」、(07年)「トイレット」(10年)。 俗に言う“ゆる映画”を撮 …

珠玉のポーランド映画『イーダ』

珠玉のポーランド映画『イーダ』

昨今、上映時間が2時間を優に超える作品が多くなりましたね。   そんな中、1時間20分でピシャリと締めてくれる映画に出くわしました。   それが公開中のこの作品です。   …

プロモーション・ムービー『映画の街、なんば』、日経新聞の告知記事、自分で書きました~(^_-)-☆

プロモーション・ムービー『映画の街、なんば』、日経新聞の告知記事、自分で書きました~(^_-)-☆

きのうの日経新聞夕刊、「関西タイムライン」欄にぼくの寄稿が載りました。 映画の発祥地についてずっと訴えていることですが、見出しの横に「武部好伸氏寄稿」とドカーンと銘打たれるとはびっくりポンでした~(^ …

プロフィール

プロフィール
武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。