ベンガル湾に面した海辺の聖地、ラーメシュワラムから6時間半もバスに揺られ、ようやく内陸地のティルティラパッリに着きました。
「ティルチィ」とも呼ばれる南インドの典型的な地方都市です。
ここに来たのは、街の北方にそびえる岩山の頂きにあるヒンドゥ寺院に行きたいと思ったから。
海の次は山。
何でもメリハリをつけないと~(^-^)
宿屋も何とかゲットできました。
さっそく街のシンボルともいえるその岩山、ロック・フォート(高さ83m) に登りました。
西から照りつける強烈な太陽光が、花コウ岩の岩肌をオレンジ色に染め、街中から眺めると、えも言われぬ情景をかもし出しています。
土産物店が並ぶ通りを越えると、寺院の入り口。
象がいました。
ヒンドゥ寺院には、象がつきものです。
シヴァ神の息子で、象の顔をもつガナパティ(ガネーシャ)と思われているのでしょうか。
石段をゆっくり登り、頂上に到達。
南インドのたおやかな光景が眼下に広がっていました。
涼風がそよぎ、実に爽やか~!
夕陽も素晴らしかった!
南インドに来て、日本人を見かけたのは2人だけ。
欧米・中国人観光客はほとんど出会っていません。
インド観光といえば、やはりガンジス川流域の北インドがメーンになるのでしょう。
そんな状況で、ここに登ってくる途中に英・ウェールズ人の中年男性と知り合いました。
もう少しで頂上というところに売店がありました。
そこでジュースでも飲もうかと思っていたら、短パンにTシャツ姿のその白人男性が頂上の寺院から降りてきたんです。
眼が合ったので、「ハロー~!」と声をかけると、足を止めてくれました。
小柄で、ちょっと小太り気味の、ほんまに人のええお方でした。
ひと言でいえば、ファンタジー映画『ホビット』の主人公とどことなく似ている。
名前は何とかトーマスさん。
ファーストネームはよくわからなかった~(((^^;)
ウェールズの「首都」、カーディフで設計技師をしているとか。
ぼくがウェールズに4回訪れ、『ウェールズ「ケルト」紀行』という本を上梓したことを言った途端、急に距離感が狭まりました。
ベンチに横座りし、一緒にセブンアップを飲みながら、ぽつりぽつりと語り合いました。
「なんでインドに来たんですか?」
トーマスさんの問いに、60歳の思い出に最南端カニャークマリ(コモリン岬)で叫びたかったから~とぼくが返答。
すると、彼はゲラゲラ笑い出しました。
「数日前に実現しましたよ」
そう付け加えると、ますます顔をしわくちゃに。
屈託のない笑顔でした。
「何でインドに?」
今度はぼくが同じ質問をしました。
トーマスさんは急に真顔になり、30年前の恋話を非常にわかりやすい英語で語ってくれました。
それがしびれるようなロマンスだったんです。
トーマスさんがカーディフ大学の学生時代、インドから留学してきた女性に恋をし、2年間交際していたそうです。
留学期間を終えた彼女はインドに帰り、その後、しばらく文通を交わしていたものの、やがて音信が途絶えました。
彼女が生まれ育ったところが、ここティルティラパッリの街で、ロック・フォートのことをよく喋っていたというのです。
トーマスさんが既婚者か独身者かどうか知りません。
その彼女もその後、幸せな家庭を築き、たくましいママさんになっているのかどうかはわかりません。
そんなこと関係なく、若かりし時に熱い恋情を抱いたガールフレンドの生地をはるばる訪れた、その気持ちと行動力にぼくは心を打たれました。
それもイギリスから遠く離れたインドの地方都市なんです。
「彼女に会えたんですか?」
「会いに来たわけではありません」
なにせ30年前のこと、彼女がこの街で暮らしているかどうかも定かではありません。
でも、そんなことはトーマスさんにとってどうでもいいことかもしれませんね。
セブンアップを飲み干すと、彼は「See you again in Wales」と言って、ドタドタと石段を降りていきました。
ツーショットの記念写真を撮れなかったのが残念でした。
素晴らしいエピソードを聞け、心はほんわか、ほんわか~(*^^*)
初対面の、しかも外国人のぼくによくぞこんな話を披露してくれはりました。
ほんま、最高の出会いだったと思います。
ロック・フォートを降り、街中で夕食をとってから宿屋に戻りました。
テレビをつけると、アカデミー賞のニュースが流れていました。
ポーランド映画『イーダ』が外国語映画賞を受賞したことを知り、胸が高まった。
この映画、ぼくが推していた作品です。
今日も素敵な日になってよかった、よかった~(*^^*)