武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

フランス南西部紀行(2014年夏)

(3)フランス南西部紀行~オッピドゥム

投稿日:

 

ニームから普通電車で西に位置するリュネル(Lunel)へ来ました。

 

リュネルはこれといって観光地でもなく、ごく普通の田舎街です。

 

どうしてここに来たのかというと、巨大なオッピドゥム(Oppidum)を見るためです。

 

古代ケルト人が築いた要塞です。

 

ほとんど丘の上にあります。

 

オッピドゥムはヨーロッパ各地に点在していましたが、大半が朽ち果て、往時の姿を残しているのはほんのわずか。

 

この町の北東約7キロにあるアンブルスムのオッピドゥムはそのひとつなのです。

 

だから、どうしてもこの目で見たくて仕方がなかった。

 

午後4時ごろにリュネルに着きましたが、はて、アンブルスムまでどう行っていいのかわかりません。

 

困った。

 

こういう場合はまず観光案内所に飛び込む。

 

それが鉄則です。

 

幸い駅前に町の地図がありました。

 

そこに観光案内所が明記されていて、ホッとしました。

 

さすがフランスは観光立国、大抵の町に観光案内所があります。

 

そこを訪れると、美人の女性スタッフが目をキラキラさせていました。

 

 

「日本人ですか? わたし日本語ベラベラです」

 

「えっ!?」

 

ローラさんという人で、東京で3年間、日本語を勉強してきたとか。

 

こんな所で日本語で会話できるとは思わなかった。

 

彼女にアンブルスムに行きたい旨を日本語で説明し、タクシーを呼んでもらいました。

 

とにかく早く行かないと、博物館が閉まるかもしれない。

 

雨も降ってきました……。

 

何とかタクシーでアンブルスムに到着。

 

博物館は英語表記もつけられており、なかなか立派なものでした。

 

 

しばし博物館で出土品を見たあと、現場に足を向けました。

 

丘の所々に遺跡が点在しています。

 

標高58メートルの頂上には住居跡や外壁跡が残っていました。

 

材質はすべて石灰岩です。

 

 

紀元前300年ごろ、ケルト系ガリア人(ヴォルカエ・アレコミア族)が要塞を建造したそうです。

 

ヴォルカエ・アレコミア族はニームに住んでいた部族ですね。

 

紀元前120年、ローマ軍が進駐し、要塞をより堅牢なものにしました。

 

広さは56ヘクタールもあります。

 

ここはローマ時代、アルプスとピレネーを結ぶ街道(ドミチア街道)の要衝にあり、非常に栄えていたそうです。

 

しかし西方のナルボンヌがこの地域の拠点となり、紀元2世紀に放棄されました。

 

博物館でもらったリーフレットの地図に道順が記されていましたが、総距離が23キロもあり、じっくり見学すると1時間半ほどかかります。

 

ニームに帰る電車の時間もあり、駆け足で遺跡を見て回りました。

 

タクシーは離していましたが、「遺跡で取材を終えた時点で電話してくれたら、タクシーを手配します」とローラさんに言われていたので、その通りにしたら、すぐにタクシーが来ました。

 

やれやれ、ありがたい!

 

言葉で言い知れぬほどの満足感を抱き、ニームに戻りました。

 

☆     ☆     ☆     ☆

 

翌日、ニーム駅前からローカルバスでナージュ・エ・ソロルギュ村(Nages-et-Solorgues)へ向かいました。

 

正確に言えば、ニームの南西約15キロにあります。

 

村と書きましたが、コミューン(共同体)です。

 

ほんま、ど田舎。

 

カフェが1軒あるだけで、通りはシーンとしています。

 

北側に丘があり、その頂上にナージュのオッピドゥム(Oppidum de Nages)があるのです。

 

アンブルスムと同じヴォルカエ・アレコミア族が紀元前800年ごろに築いたものです。

 

広場から「オッピドゥム通り」と名付けられた小路を必死になって駆け上りました。

 

なぜなら、ここに到着したのが午後零時10分、ニームへ帰る最終のバスが午後2時だから。

 

それに乗り遅れると、大変なことになります。

 

持ち時間は1時間50分のみ。

 

ぼくは妻を公園に残し、炎天下、丘を目指してダッシュしたのです。

 

日ごろ、ランニングで鍛えているので、楽勝でしたよ~(^_-)-

 

標高168メートルの頂きに達し、目を見張りました。

 

一面、石灰岩のかけらが散在しているのです。

 

紛れもなくオッピドゥムの残滓。

 

一部、家屋や外壁が修復されていました。

 

そこをひたすら駆け回り、カメラに収めました。

 

半日いても撮り切れないほどです。

 

昨日、訪れたアンブルスムよりもはるかに遺跡らしい。

 

195874年、フランスの考古学チームによって発掘されました。

 

この周辺には計6つのオッピドゥムがあり、その中でここが最も保存状況がいいといわれています。

 

スゴイのひと言!!

 

ケルト愛好家や研究者でここに来た日本人はぼくが初めてに違いない。

 

ほんまにそう思いました。

 

オッピドゥムは紀元前50年ごろに見放され、住民はニームに移りました。

 

その後、単なる丘になってしまったそうです。

 

栄枯盛衰……。

 

ケルトの遺跡を訪れるといつもそのことを思い浮かべ、ちょっぴり感傷的な気分に浸ってしまいます。

 

南フランスの気だるい昼下り。

 

帰り、下界に視線を落とすと、ソロルギュの集落が深い眠りに入っているようでした。

 

アンブルスムとナージュのオッピドゥム。

 

2つのケルト遺跡を目の当たりに見ることができ、旅の目的の半分ほどを果たせました。

 

-フランス南西部紀行(2014年夏)

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。