武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

ポルトガル紀行(2013年夏)

ポルトガル紀行(12)最終回

投稿日:2013年8月18日 更新日:

マデイラ島で4日間、のんびり過ごし、リスボンに戻ってきました。

旅の最後はファド(Fado)を満喫~♪

ファドは人生の哀歓を託した魂の歌。

「サウダーデ」という失われたものに対する郷愁の想いや喪失感がベースになっています。

だから、お隣のスペインの情熱的なフラメンコとは対極で、かなり渋めの音楽です。

日本の演歌に通じるところもあるかもしれません。

古くからある庶民の民俗歌謡だと思っていたら、19世紀に確立されたようで、意外と歴史が浅いんですね。

タマネギのような12弦のポルトガルギター(ギターラ)と普通のクラシックギター(ヴィオラ)の伴奏に合わせ、歌い手(ファディスタ)が信じられないくらいすごい声量で熱唱します。

日本ではまだまだ知名度が低いですが、地元ポルトガルでは国民的な歌として定着しています。

リスボンでは下町のアルファマ地区とバイロアルト地区にファドを聴かせる店(カーサ・ド・ファド)が集中しています。

ところで、『マリオネット』という日本人のアコースティック・ユニット、ご存知ですか?

ポルトガルギター奏者の湯浅隆さんとマンドリン奏者の吉田剛士さんが組んでいるユニットです。

お2人とも実力派のミュージシャンです。

何度もリサイタルを聴きに行っています。

その湯浅さんと知り合いなんです。

20年ほど前、大阪・天満のバーでご縁ができました。

今回、リスボンに着いたとき、Facebookを介して湯浅さんがオススメのファドの店を紹介してくれました。

それがアルファマ地区にあるFado Maiorというお店。

夕食を済ませ、宿屋からとことこ歩いてその店に行きました。

ちょうど演奏中で、いきなりドアを開けたので、ギタリストとお客さんのすごい視線に圧倒されました。

30人ほどが入れば、満席になる小さな店です。

「あの~、ミスター・ユアサから教えてもらって来ました」

パニック状態になりながら、英語で説明すると、演奏がピタリと止み、英語が話せるクラシックギター奏者が「タカシ? 知り合いなんですか」と驚いた表情を。

この人、カルロス・ファビァンさんという方です。

そして店の従業員に何やらポルトガル語で伝えてくれると、奥の席に案内してくれました。

その後、お店の人が次々、やって来て、湯浅さんがこの店で演奏した時の写真を見せてくれ、ポルトガル語でいろいろ語ってくれはりました。

それをファビァンさんが通訳。

要約すると、こんな感じです。

「タカシはすごいテクニックを持っています。ここで演奏したとき、みなびっくりしました。日本の歌い手も来ていますよ。ほら、タカシが伴奏している写真がありますよ」

へーっ、湯浅さんの力に吃驚!!

このあと演奏が再開し、ウエイターの青年、お店のマダム、プロの女性歌手が次々にファドを披露してくれました。

みなマイクなしで、地声です。

それでも店内が振動するほどパワフルなボーカル!!

ぼくと嫁さんは赤ワインのボトルを1本取り、ええ塩梅で聴き入っていました。

ひとしきり演奏を終えると、ファビァンさんが笑顔を振りまいて、また話しかけてきました。

「あなたはギターを弾かないんですか?」

湯浅さんの友達ということで、ぼくもミュージシャンと思いはったんでしょうね。

酔いがまわってきたのか、つい調子に乗って言ってしまった。

「ぼくもギターを弾いてます」

指先のギターダコを見せると、「それじゃ、一緒に演奏しましょう」と言われまして。

てっきりポルトガルギター奏者だと勘違いしてはります。

「ちゃいます、ちゃいます。普通のギターです」

これも説明不足でした。

ファビァンさんは「じゃあ、ポルトガルギターと共演してください」。

え~っ!!

他のお客さんも期待しています。

どないしょ……。

「ファドとちゃいますねん。ビートルズソングとかフォークソングとか、そんな音楽です。それにアマチュアですから」

ほんまは、ちょかBandというユニットを組んでいることを言いたかったのですが、ポルトガルでちょかBand言うてもよけいに話がややこしくなります。

とにかく必死になって、汗だくになって、“抵抗”しました。

でも、なかなか通じません。

「わたしも素人ですよ。本職は会計士。ギターは趣味」

その割には巧すぎます!

結局、ファドは1曲も弾けないことをわかってもらえましたが、そのせいで完全に酔いが醒めました(笑)

帰る直前、ギタリストの間に入って記念撮影~♪

翌日はバイロアルト地区のファド・レストランへ足を向けました。

この店は、17年前に来たところです。

店内はまったく変わっていませんでしたが、店のスタッフがみな太ってはりました~(^o^)v

呼び込みをしていた男性に再訪したことを伝えても、きょとんとしてはるだけ。

それはそうでしょう、大昔のことですからね。

午後8時。

客はぼくたちだけ。

それでもファドの演奏が始まり、その男性が見事なノドを披露。

続いて厨房のおばちゃんがエプロン姿のまま、直立不動で歌いました。

この人、体型といい、歌唱力といい、17年前とほとんど変わらず。

そのうち続々と客が入ってきて、1時間もすれば、満席になりました。

前は地元の客が多かったのに、今や外国人観光客ばかり。

かなり俗化されていたのには、正直、失望しました。

でも、いかにもプロ丸出しの女性歌手はさすがに迫力があった。

拍手喝采です。

歌い終えると、この人、お客さんの注文を取り、ウエイトレスに変身してはりましたわ。

こんな感じで、2日間、リスボンの夜を堪能。

旅の締めくくりはロカ岬で。

ユーラシア大陸の最西端です。

リスボンから電車とバスを乗り継いでやってきました。

17年前は曇り空でしたが、この日はとことん晴天でした。

ぼくが来るために、ポルトガルが用意してくれたお天気です(笑)。

風が強い。

でも最高の気持ち~(^o^)v

これで旅が終り。

ちょっぴり寂しくなりました。

でも、ほんまに充実した旅でした。

大げさかもしれないですが、ぼくの人生に大きなくさびを打ち込むことができた、そんな感じです。

これでもって旅のレポートは終了です。

イェーツ~(^_-)-☆

-ポルトガル紀行(2013年夏)

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。