武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

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ママチャリ琵琶湖1周ツアー(中)

投稿日:2013年5月23日 更新日:

ママチャリ琵琶湖1周ツアーの2日目(5月19日、日曜日)です。

 

長浜駅前のビジネスホテルで午前6時半に起床。

 

カーテンを開けると、うす曇り。

 

天気予報ではきょうは午後から雨になっていました。

 

うーん、ヤバイ。

 

とにかく雨が降る前に、次の目的地、大津の雄琴に近づこう。

 

雄琴まで約103㌔~!!
ちょっと焦りながら、ホテルで軽く朝食をとり、7時20分にスタートしました。

 

本来ならもっと早く出発すべきでしたが……。

 

豊臣秀吉が築いた長浜城を再現したコンクリート製のお城をしかと目に焼きつけ、湖岸を北上しました。

市街地を抜けると、車が少なく、周りはのどかな風景がひろがっています。

 

すべてが素朴です。

癒されますね~。

 

ママチャリでゆっくり、のんびりと~♪

 

前かごに荷物を入れて走行するスタイルがまたよろしいですね。

 れっきとしたママチャリストです。

 

最高の気分ですわ。

 

9時前に木之本に着きました。

 

時間の止まった、静かな集落です。

 

余呉湖を1周したかったのですが、余力を残すべし、時間を節約すべしと泣く泣く断念。

 

しかし賤ヶ岳の古戦場の立て札を目にした時、さすがにときめきましたわ(^-^)

塩津に行くには上り坂があります。

 

このママチャリ、結構、重量があるので、上りはキツイ!

 

途中から押して上り、トンネルをくぐり抜けると、奥琵琶湖の閑静な情景が目に飛び込んできました。

音のしない世界……。

 

独特な景色でした。

 

雨雲が広がってきました。

 

イヤやなぁ。

 

そろそろ雨に打たれるかもしれないと覚悟を決め、力を込めてペダルをこいでいると、永原というところでマラソン大会に巻き込まれてしまいました。

奥びわ湖健康マラソン。

 

地元のちびっこが多かった。

 

ざっと500人が参加しているそうです。

 

自転車を止め、スタートの様子を見ていると、スタッフから声をかけられました。

 

「3キロと5キロのコースがあります。どうですか。参加されませんか」

 

一瞬、心が動いたけれど、空模様が気になり、丁重にお断りしました。

 

「ほんまは自転車よりもランニングの方が好きなんです。去年の大阪マラソンに参加し、完走できました。走りたいんですが、雄琴まで行きますので」

 

「えっ、この自転車で雄琴ですか!? かなり距離がありますよ。雨も降ると思いますよ」

 

スタッフの男性はえらい心配してくれはりました。

 

「覚悟してます」

 

作り笑顔を見せ、マラソンのコースを走らせてもらいました。

 

左手は鏡のような琵琶湖。

 

鈍色の湖面が不気味。

 

午前11時10分、海津大崎に到着しました。

 

そこの食堂で天ぷらうどんの昼食。

 

お客さんはぼく1人だけです。

 

店主のおじさんとのやりとり。

「何でママチャリなんですか?」

 

「理由は3つあります。まず1つ目。元日にママチャリで琵琶湖を走行している自分の姿を夢で見ましてん」

 

「へーっ、??」

 

「2つ目は……。みなさんええ自転車で回ってはりますが、人のやらんことをやりたいと思いまして。元々、天邪鬼なんです」

 

「へーっ、??」

 

「3つ目がほんまの理由です。要はアホなことをしたかったんです。体力と気力がまだある間に。意味がないかもしれませんが、オモロイことをするのはオモロイですからね(何のこっちゃ??)」

 

「なるほど、そうなんですか!」

 

おじさんは納得してくれました。

 

この質問はあちこちで投げかけられました。

 

体力を誇示したいとか、変なチャレンジ精神を発揮させたいとか、そんなことではなく、やりたいと思ったことを行動に移しただけです。

 

もっとも、チャレンジ精神はないことはありませんが……。

 

アホちゃうか~と思うてはる人がきっと多くいるかもしれません。

 

でもどう思われようが、全然、気にしていません。

 

好きでやってんねんから(^o^)v

 

「そろそろ出発される方がええですよ。雨が降りますよ」

 

店主にそう言われ、あわててママチャリにまたがりました。

 

「ごちそうさまでした」

 

「はい、お気をつけて!」

 

ここを出たのは11時40分、ちょうど30分間、話し込んでいました。

 

穏やかな湖を左手に望みながら、軽快に走行していると、次第に湖面が波立ってきました。

 

南風……。

 

空は厚い雲に覆われています。

 

今津には午後零時35分に到着。

 

湖岸の公園で、サンドイッチをぱくついていた青年に1枚、写真を撮ってもらいました。

 

「もうすぐ雨ですよ。どこまで行くんですか?」

 

「雄琴です」

 

「60キロほどあるんちゃいますか」

 

「えぇ、そんなありますか。でも何とかして行きますわ」

 

この直後、今津の町のお寺で靴の紐を結び直していたら、ポツリポツリときました。

 

零時45分です。

 

ついに……。

 

覚悟を決めた!

 

覚悟の安売りや(笑)。

 

リュックから阪神タイガースのレインコートを出して羽織り、前かごは警察からもらった防犯用のカバーで覆いました。

 

このカバーが結構、重宝しました。

 

すぐに大粒の雨が体を叩きつけ、その中を走行。

 

これまでよく出会っていたツーリングのサイクリストの姿がピタリと消え、歩いている人もいない。

 

幸いサイクリング専用道路は車道からはずれ、湖岸沿いの松林をくねくねと貫いており、車と接触するという危険性はありません。

 

でもスリップしやすく、気が抜けません。

 

10分も経たないうちに、全身、ずぶ濡れ状態になりました。

 

レインコートがはだけ、下半身はお風呂に入っているような感じ。

 

上半身もレインコートの隙間から容赦なく雨水が入ってきました。

 

〈オレは一体、何をやってんねん~!?〉

 

〈何でこんな苦行に遭わなあかんねん~!?〉

 

マイナスの思考が頭によぎったけれど、そんなことばかり思っていたらしんどくなるだけ。

 

とにかく楽しいことを考えよう!!

 

今夜、泊まる雄琴温泉の湯気立つ大浴場

 

宿屋の地酒と郷土郷里

 

ちょかBandのライブ

 

夏のヨーロッパ旅行

 

阪神が勝った甲子園

 

教え子たちとの語らい

 

オリジナル曲のギター演奏

 

素敵なバーでのひと時……。

 

そのうち、雨の歌をいろいろ口ずさんでいました。

 

~Sing in the rain、Just Sing in the rain~♪♪(雨に唄えば)

 

~Raindops keep in fallin’ on my head,And just like the guy who’s feet are too big for his head~♪♪(雨にぬれても 映画『明日に向って撃て!』の主題歌)

 

~Listen to the rhythm of the falling rain~♪♪(悲しき雨音)

 

ひと昔前の映画音楽やポップスばかりやありまへん、童謡や歌謡曲も歌いました(笑)。

 

~あめあめふれふれ かあさんが じゃのめでおむかえ うれしいな~♪♪(あめあめふれふれ)

 

~雨にぬれながら たたずむ人がいる 傘の花が咲く 土曜の昼下がり~♪♪(三善英史の『雨』)

 

~雨雨ふれふれもっとふれ 私のいいひと つれて来て~♪♪(八代亜紀の『雨の慕情』)

 

こんな曲も。

 

~雨がしとしと日曜日 ぼくはひとりで 君の帰りを待っていた~♪♪(ザ・タイガースの『モナリザの微笑』)

 

ええ曲ですねぇ。

 

極めつけはこれ。

 

~どしゃぶりの雨の中で わたしは泣いた やさしい人の想い出を つよく抱きしめて~♪♪(和田アキ子の『』どしゃぶりの雨のなかで』)

 

ハハハ、面白い。

 

次から次へと浮かんできます。

 

思いのほか雨の曲が多いことがわかりました。

 

それに昔の歌をよぉ覚えていますわ。

 

気がつくと、高島の白髭神社の近くに差しかかっていました。

 

「コーヒー」の看板が目に入ったので、そこで休憩。

 

やれやれ。

 

「うわぁ、ずぶ濡れですがな」

 

お店に入るや、店主のおじいさんが乾いたタオルを持ってきて、「これで体を拭いて」。

 

ありがたい!

 

体も冷えていたので、とにかくホットコーヒーを飲みたかった。

 

「今から温かいコーヒーを煎れたげまっさかい。てんこ盛りで持っていきますわ」

 

サービス精神が旺盛といおうか、根っから人がいいといおうか、ほんまに歓待されました。

 

客はぼくだけ。

 

「自転車、大丈夫ですか? 高級品やったら、盗まれますよ」

 

「絶対、大丈夫と思います。カギをかけやんでもええかも。あれですから」

 

窓の外に置いたママチャリを指さすと、おじいちゃんが仰天。

 

「ほんまや。ハハハ」

 

このあと、ママチャリ走行している理由をここでもう一度、お話しました。

 

「たまにいてはります、ママチャリで走ってはる人。でもこんな悪天候でママチャリはご主人が初めてですわ」

 

この人、ぼくのことをずっと「ご主人」と呼んではりました。

 

カップに並々と注がれたコーヒーとサービス品のクッキーが2つ。

 

美味かった!!!

 

体が温まった!!

 

「ここから琵琶湖大橋まで25キロ。雄琴やったら、30キロ弱ですかなぁ。雨足が弱まればええんですが」

 

「まぁ、どうにかなるでしょう」

 

ぼくがあまりにあっけらかんとしていたので、おじいちゃん、あ然としてはりました。

 

「明日の雄琴から大阪までが結構、きついんとちゃいますか」

 

「それもどうにかなるでしょう」

 

20分ばかり店で体を休め、再びスタート。

 

店先でおじいちゃんが、「記念撮影撮らなあきまへん」。

 

で、撮ってもらったのがこの写真です。

 「気ぃつけなはれや~!!」

 

おじいちゃんの励ましの言葉を背中で受け、活力が溢れてきました。

 

「おおきに、ありがとうございました!!」

 

近江弁と大阪弁、幾分、違いはあるけれど、関西弁同士、なかなかええもんですねぇ(^o^)v

 

この人とツーショットを撮りたかったなぁ……。

 

このあとさらに雨がきつくなってきました。

 

でも、ここでシリアスになったらあかん。

 

気分が滅入ってくるだけやから。

 

こんなどしゃ降りの中、ママチャリで湖岸を走行するなんてことは、おそらく人生でもこれ1回だけやと思う。

 

そう考えれば、ほんまええ経験をしている、そのように頭を切り替え、マイペースでペダルをこぎ続けました。

 

もちろん雨の歌を大声で熱唱しながら……。

 

絶対に変なおっちゃんですよね。

 

阪神のレインコートを羽織り、必死でママチャリを走らせ、雨の曲を歌っているんですから(笑)。

 

そのうち琵琶湖大橋を越え、午後6時すぎに雄琴の温泉宿にたどり着きました。

 

この宿、山手にあるので、上り坂が正味きつかった!!

 

長浜を出てから11時間半、そのうち雨の中を5時間15分も。

 

びしょびしょになったぼくのみすぼらしい姿を見て、宿屋の従業員は血相を変え、開口一番、「大丈夫ですか!?」。

 

「はい、大丈夫です。早く温泉に浸かりたいです」

 

夜は心の底からくつろげました。

 

これで超刺激的な2日目の終わりです。

 

まだ明日があります!

 

爆睡したのは言うまでもありません。

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。