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10月 06

芳醇な余韻を残すラブ・ロマンス~『新しい靴を買わなくちゃ』

(C)2012「新しい靴を買わなくちゃ」製作委員会

タイトルからして、ちゃらちゃらした恋愛ドラマ~。

 

勝手にそう思い込み、全く期待せずに試写を観たら、意外や意外、胸が熱くなってしまった(^o^)v

 

ぼくにとっては拾いモノでした。

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

巧い。

 

観終わった後の正直な感想である。

 

パリという舞台設定も、2人の成り行きも、銀幕から醸し出される雰囲気も。

 

人気脚本家、北川悦吏子の映画監督3作目は軽やかな、それでいて芳醇な余韻を残す大人のラブ・ロマンスだ。

 

セーヌ河岸で、観光で日本から来たカメラマンのセン(向井理)と邦人向けフリーペーパーの編集をしているパリ在住のアオイ(中山美穂)が出会う。

 

淡彩なスケッチ風の映像がその後の揺らめく展開を匂わせる。

 

そこでまずあり得ない出来事が起きる。

 

しかし、「邂逅は偶然から」という恋愛映画の鉄則を臆面もなく使い、それがかえって不自然さをそぎ落とした。

 

物語の軸となるのが2人のさり気ないやり取り。

 

とりわけ会話が絶妙だ。

 

キャッチボールのごとくポンポンと言葉を投げ合い、両者の生活環境、過去、心模様を浮き彫りにする。

 

アオイが携帯でセンをホテルまで導く場面でグッと引き込まれた。

 

リアルタイムで移動撮影しただけに、臨場感が満点。

 

離れているのに、接近しつつある象徴的なシーンだった。

 

彼らは互いに愛の芽生えを感じ始めている。

 

しかしそれを露骨に出さず、恋人のフリを貫き通す。

 

繊細で心に傷を負った年上の女性を受け止めるセン。

 

彼の包容力と優しさが強調される。

 

まさに〈寄り添う愛〉。

 

本作にはもう1つ並行して物語が進行する。

 

センを無理やりパリに連れてきた妹スズメ(桐谷美玲)と画家をめざす恋人カンゴ(綾野剛)の顛末。

 

こちらは〈押しつける愛〉が描かれ、本筋のドラマを際立たせる。

 

3日間の話を全てパリ・ロケで作った。

 

エッフェル塔や凱旋門などの名所を出しすぎた気もするが、パリをかくも洒脱に撮った映画はあまり観たことがない。

 

靴を眼目にした辺り、女性監督だなと実感した。

 

1時間55分。

 

★★★★

 

☆6日から全国ロードショー

 

(日本経済新聞2012年10月5日夕刊『シネマ万華鏡』。ブログへの掲載を許諾済み。無断転載禁止)

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