「伊藤大輔監督の霊に捧ぐ」――。
『多十郎殉愛記』の冒頭に出てくる中島貞夫監督の言葉から、本格時代劇を撮るんだという本気度が伝わってきました。
しかも監督が20年ぶりにメガホンを取った新作とあって、否が応でも期待度が高まります。
幕末の京都、親の借金から逃れるために長州藩を脱藩し、貧乏長屋で暮らす若き浪人、清川多十郎。
高良健吾の何とも精悍な面構えに気圧されました。
凄腕の剣士なのに、今や討幕の想いも失せ、酒に溺れる怠惰な日々が続く……。
それでも眼光鋭く、思わずゾクッとさせられる不気味さを全身からかもし出していました。
そんな多十郎に小料理店の女将おとよが何かと世話を焼くも、すげない素振りをされ、胸を痛めます。
時代劇ではあまり見たことのない前髪がじつにチャーミング。
彼女に扮した多部未華子の愛くるしさに惹きつけられました。
ダメ男に惚れるというどうしようもない〈性〉をそこはかとなく演じ切っていました。
高良とのカップリングは申し分ありません。
ちょっと脱線しますが……。
その小料理店に飾ってあったお多福人形。
2013年に放映された森山未來と尾野真千子共演のNHKドラマ『夫婦善哉』で大阪・ミナミの法善寺横丁のぜんざい屋に鎮座していたものだと看破しました(笑)。
そのドラマは東映京都撮影所で撮影されたので、その後も撮影所に保管されていて、再利用したのでしょう。
こんな発見をするのが結構、楽しい~(^_-)-☆
閑話休題――。
そのうち、ひょんなことから多十郎は、新選組とライバル関係にある佐幕派の見回り組から目をつけられます。
そこへ故郷から勤王の志士になるべく腹違いの弟、数馬がやってくる……。
不穏な空気感をはらませながら、多十郎、おとよ、数馬の三人を絡ませ、一気にクライマックスの大立ち回りへと引き込んでいきます。
それも30分間、延々とチャンバラが続くのです。
気合の入った高良の殺陣。
よほど特訓を積んだに違いありません。
CGはいっさいなし。
すべて肉体で表現していました。
そこに中島監督の美意識を強く感じられます。
何本もの縄で捉えられるシーンは、まさに伊藤大輔監督の代表作『忠治旅日記』(1927年)の有名な場面とそっくり。
一瞬、高良健吾が大河内伝次郎になり代わった、そんな印象を受けました。
冒頭の言葉をきちんと具現化させており、それは伊藤監督への揺るぎないオマージュであるのです。
強いて言えば、殺陣が流麗すぎて、人を殺すことの凄さがあまり伝わってきませんでした。
血と刺殺音を強調させる実録時代劇とは一線を画し、それでいて壮絶なチャンバラを見せたかったのでしょう。
それが中島監督の理想とする時代劇なのかもしれませんね。
題名のごとく、多十郎とおとよの殉愛が哀しくもあり、また美しい。
てっきり原作があるものと思いきや、オリジナル脚本でした。
よけいな情報をそぎ落としており、非常にこなれたコンテンツだと思います。
どのワンシーンからも熱き映画愛がにじみ出ていた~!
久しぶりにホンモノの時代劇を目にし、充足感に浸れました。
どうか後進の映画人がその魂を引き継いでいってほしい。
84歳の中島監督、ほんまにお疲れさまでした。
HP:http://tajurou.official-movie.com/