臓器移植が絡み、揺れ動く親の心情。
そこに科学技術が介在してくる。
生命倫理と愛情の狭間で生じる極めてシリアスな問題をミステリー・タッチで描き上げた。
原作は作家、東野圭吾の同名小説。
IT機器メーカーの社長、和昌(西島秀俊)と妻の薫子(篠原涼子)には来年、小学校に入学する娘の瑞穂がいる。
ある夏の日、彼女がプールで溺れ、脳死と判定された。
21年前、日本で臓器移植法が制定され、脳死体から心臓、肝臓などの臓器が摘出できるようになった。
しかし長年、心停止を死と認識してきただけに、脳死を理解できない人が多い。
この夫婦も同じ。
あまりに突然のことで動揺する中、医師から臓器移植を打診される。
体が温かく、眠っているようにしか見えない娘が死んでいるとはどうしても思えないのだ。
物語が動くのはこのあと。
和昌の会社の研究員(坂口健太郎)が最先端の医療技術を瑞穂に応用するのである。
それは脊髄に直接、電気信号を送り、筋肉を動かすという装置。
娘が生きていると信じ込む薫子の言動が家族内に猛烈な軋みを生み出す。
妻の気持ちを分かろうとするも、ブレーキをかける夫。
そのうち研究員が全能の神のごとく振る舞い始める。
各人の価値観がぶつかり合う自宅の居間がまるで「戦場」のように見える。
何が正しく、何が悪いのか、そんな単純に答えを出せないデリケートな世界を堤幸彦監督が密室劇として濃密に構築した。
篠原の熱演には圧倒された。
眠り続ける娘に注ぎ込む母性が尋常ではなかった。
眼力のある演技。
間違いなく彼女の代表作になるだろう。
究極の決断に向かって加速度的に突き進んでいく家族ドラマ。
死生観を考えさせられる深い一作だった。
1時間37分
★★★★(見逃せない)
☆大阪ステーションシネマシティほかで公開
(日本経済新聞夕刊に2018年11月16日に掲載。許可のない転載は禁じます)