武部好伸公式Blog/酒と映画と旅の日々

ケルト文化に魅せられ、世界中を旅するエッセイスト・作家、武部好伸。映画と音楽をこよなく愛する“酒好き”男の日記。

エッセー 大阪

Otomo!の「大阪ストーリー」~『川面にそよぐ渡船巡り~飾り気のない大阪に触れる』

投稿日:

Osaka Metro(旧大阪市営地下鉄)のアプリ「Otomo!」で連載中のエッセー第4弾です。

テーマは「渡船」。

まだ暑かった8月末に書きました。

秋が深まりつつある今と季節感が異なりますが、ご了承くださいませ~(笑)

   ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

短パン、Tシャツ、サンダル履き、サングラス。こんなラフな身なりでママチャリに乗り、残暑の厳しい8月下旬、渡船巡りをしてきました。

年に一度、必ず渡船に乗りたくなる「病気」なんです。

時候がよければ、ランニングで行きますが、歩いていくのもなかなかええ塩梅。

今回は趣向を変え、自転車にしました。

どうして渡船なのか? 

それはちょっぴりレトロ感があり、普段着の大阪と触れ合えるからです。

「水の都」の異名を取る大阪には古くから渡し舟が各地にありました。

明治40(1907)年、29カ所の公的な渡船場が設けられ、戦後は昭和23(1948)年、15カ所で再開しました。

現在は8カ所。

いずれも大阪市南西部の港湾エリアにあります。

1カ所だけ民間に業務委託していますが、すべて大阪市が管理。

公道と同じ位置づけなので、乗船料は不要です。

ただし、乗れるのは歩行者と自転車だけ。

自宅(西区新町)からペダルをこいで木津川沿いを南下し、千鳥公園(大正区)の東にある落合上渡船場へ到着しました。

待合所から眺める木津川は意外と川幅が狭い。

東側にある対岸の渡船場(西成区)が目の前に見えます。

乗船はぼくだけかなと思っていたら、運行時間の直前になってぞくぞくと利用者がやって来ました。

みな近所の人たちで、渡船の時間をちゃんと把握してはるんですね。

大半は自転車の人。

落合上渡船場。スロープを上がると、その下に桟橋があります

「こんにちは」

「今日も暑いですね」

船を操舵するおじさんに口々に挨拶し、みなさん船に乗り込みます。

運航時間は2分ほど。

その間、潮の香りをかすかに含んだ川風がそよぎ、得も言われぬ心地よさに酔いしれました。

立ったまま。揺れがあると危険なので、船上での写真は御法度です。

対岸の渡船場に着くと、「ありがとうございます」、「おおきに」と必ずお礼を言い、「お気をつけて」の言葉を背中に受けて下船。

こういう言葉のキャッチボールは理屈抜きに心が和みますね。

渡船は対岸に接岸して利用者を乗せると、すぐにUターンします

500メートルほど下流の落合下渡船場から今度は木津川を西側へ渡り、さらに自転車で南へ。

この辺り、大きな工場が建ち並んでいます。

日曜日なので閑散としていましたが、平日ならトラックが頻繁に行き交っていることでしょう。

モダンな落合下渡船場の待合場

流麗なループ橋の千本松大橋を仰ぎ見る千本松渡船場。

そこでサイクリングの一団と出会いました。

中年男の5人組。

訊くと、豊中から堺の浜寺をめざしているそうで、「渡船を乗るのが楽しみですわ」とリーダー格の男性が日焼け顔で答えてくれました。

所どころ渡船場の案内板が設置されています

千本松大橋の下を航行する渡船

このあとOsaka Metro四つ橋線の北加賀屋駅(住之江区)近くでランチを取り、南港通を西へ進み、木津川渡船場へ。

数えると、木津川に4か所も渡船場があります。

対岸には中山製鋼所。

でっかい! 

阪神工業地帯の一翼を担っているのを肌身で感じられました。

木津川運河の向こうにデンと構える中山製鋼所

渡船で木津川を北へ渡り、工場街の船町(大正区)を縦断して先端にある船町渡船場へ来ると、「早く、早く!」と職員さんの声。

「わっ、すんません!」

あわてて乗船したら、すぐに動き出しました。

間一髪セーフ。

船町渡船場では間一髪、乗船できました

木津川運河を渡ったところが鶴町(大正区)です。

整然と団地が建ち並ぶ中を北上し、アーチが美しい千歳橋の下にある千歳渡船場へ来ました。

ここは大正内港の付け根に当たります。

多くの貨物船が停泊しており、向こうに緑豊かな千鳥公園が望めます。

視線を左へ移すと、弁天町(港区)の高層ビル群。

素晴らしい景観にうっとりさせられました。

穏やかな情景を見せる大正内港

弁天町の高層ビル群を望む

台湾から大阪観光に来た家族連れがいました。

「こんな渡船、国(台湾)にはないです。タダというのが嬉しい」

小柄なご主人が片言の日本語で話してくれました。

今や渡船はちょっとした観光の目玉になっており、外国人だけでなく、国内の観光客も渡船を乗りに来ています。

千歳渡船は一番距離があり、対岸の北恩加島(大正区)まで約4分かかりました。

途中、悠然と航行する貨物船のそばを水上オートバイが水しぶきを上げて突っ走っていきました。

なかなか刺激的な光景でした。

ちょっとした旅情を味わえる千歳渡船

7つ目は尻無川の甚兵衛渡船場です。

大正区泉尾と港区福崎を結んでいます。

この付近、学校が点在しており、平日の朝晩は通学する生徒で混み合い、二隻の渡船がフル稼働します。

船内に電車の車内と同じ吊り革がありました。

利用者が最も多い渡船です。

この日はしかし、夏休みの日曜日、いたってのどかな風情でした。

利用者が一番多い甚平衛渡船場

「毎日、利用してはるんですか」

「ええ、買い物に行くときは便利やしね。生まれたときから渡船に乗ってますよ。ハハハ」

同船した年配の主婦の言葉から、渡船が日常に欠かせない〈市民の足〉になっているのがよくわかりました。

港区側の甚兵衛渡船場から見た尻無川水門

甚兵衛渡船場から北西へ約2.5キロに位置するのが残る1つの天保山渡船場です。

海遊館のある港区築港とUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のある此花区桜島を結んでいます。

安治川をはさんでの二大観光スポット。

そのため近隣住民に加え、観光客がめっぽう多く、USJのアメリカ人従業員の姿もよく目にします。

暑さでいささかバテ気味となり、今回は天保山渡船をパス。

甚平衛渡船場から自宅へ直帰しました。

飾り気のない庶民的な空気をたっぷり吸え、思いのほか心の洗濯ができました。

-エッセー, 大阪

執筆者:


  1. 杉本恭子 より:

    2、3年前のハイキングで甚平橋、安治川の渡船を体験。水の都大阪ならではの生活の場、素晴らしい文化をずっと残してほしい。財政難でカットせんといてね吉村さん❤️

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武部好伸(タケベ・ヨシノブ)
1954年、大阪生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。映画、ケルト文化、洋酒をテーマに執筆活動に励む。日本ペンクラブ会員。関西大学非常勤講師。