第2次大戦中、ナチスドイツのお膝元、首都ベルリンに約7000人のユダヤ人が潜伏し、そのうち1500人が生き残った。
知られざるこの歴史的事実を骨太なノンフィクション・ドラマとして再現した。
クラウス・レーフレ監督がテレビのドキュメンタリー番組の制作過程でこのことを知り、4人の生存者を突き止めた。
それが映画化の発端となった。
当時、16~20歳の男女各2人。
ドイツ人兵士になりすます。
戦争未亡人を装う。
ヒトラー・ユーゲント(青少年団)の制服を着る。
髪の毛をブロンドに染め、別人に生まれ変わる。
彼らは国家に存在しない「透明人間」となり、ゲシュタポ(秘密国家警察)の監視の目を逃れようとした。
いつ正体がバレるやもしれぬ恐怖心と孤独感がビンビン伝わってくる。
全編を包み込む緊迫感あふれる映像がサスペンス映画のような雰囲気を醸し出した。
4人が翻弄される様子も非常にドラマチックで、フィクションではないかと思ってしまうほど。
しかし、今や年老いた実際の生存者へのインタビューと大戦時の記録映像が随所に挿入され、実話であることを思い知らされる。
この演出は効いていた。
各人、交錯することなく、平行して描かれる。
だから群像ドラマではない。
変に脚色せず、事実を突きつけ、強靭な精神と運に導かれ、ひたすら懸命に生き延びようとする姿を浮き彫りにするのだ。
ナチスに賛同しないドイツ人や反ナチス活動家も登場する。
そこにドイツ国防軍の将校がいたのには驚かされた。
一方、身を隠す同胞を見つけ、密告するユダヤ人も描かれる。
ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を扱った映画は多々ある。
その中で埋没していた史実を掘り起こし、独特な視点で検証した本作を高く評価したい。
1時間51分
★★★★(見逃せない)
☆7月28日(土)~テアトル梅田、8月4日(土)~シネ・リーブル神戸、8月4日(土)~京都シネマ
☆配給:アルバトロスフィルム
(日本経済新聞夕刊に2018年7月27日に掲載。許可のない転載は禁じます)