Category Archive: 映画

8月 24

老宰相の苦悩をあぶり出す~英国映画『チャーチル ノルマンディーの決断』(25日公開)

第2次大戦時に英国を率いたチャーチルの映画を今年、2本も観られるとは思わなかった。

本作は連合国を勝利に導いたノルマンディー上陸作戦をめぐり、苦悶する老首相の姿を赤裸々に浮き彫りにする。

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

3月公開の『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』では、1940年5月10日に首相就任直後、ダンケルクの撤退作戦を決断した強靭なリーダー像を前面に打ち出した。

ここではその4年後に焦点を当てている。

戦争が長引き、さすがの名宰相も指導力やカリスマ性に翳りが出てきた。

70歳。

老いも忍び寄る。

そんな時、上陸作戦が立案される。

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

この作戦に唯一、異を唱えたのがチャーチルだった。

全く知らない事実とあって驚いた。

反対理由が次第に物語の重しになってくる。

主演を務めた英国演劇界の重鎮ブライアン・コックスが圧倒的な存在感を示した。

連合軍最高司令官アイゼンハワー(ジョン・スラッテリー)に自分の意見が却下され、うつ状態になっていく様子が秀逸だ。

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

作戦を呪い、中止されんことを祈願する場面では、シェークスピア悲劇のリア王のごとく仰々しいセリフ回しを披露。

この俳優ならではの風格ある立ち居振る舞いにうならされた。

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

『ウィンストン・チャーチル~』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したゲイリー・オールドマンに比肩しうる演技力を見せた。

どちらがチャーチルに似ているかといえば、コックスの方に軍配を挙げたい。

オーストラリア人のジョナサン・テプリツキー監督は作戦決行までの96時間を丁寧に再現。

「独り芝居」を際立させ、あえて地味な映像に仕上げた。

その中で妻クレメンティーン(ミランダ・リチャードソン)との夫婦愛を滋味深く描いた。

どこまでも寄り添う2人。それが映画のテーマのような気がした。

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

© SALON CHURCHILL LIMITED 2016

1時間45分  

★★★★(見逃せない)

☆25日(土)~テアトル梅田、T・ジョイ京都、9月15日(土)~シネ・リーブル神戸で公開。

(日本経済新聞夕刊に2018年8月24日に掲載。許可のない転載は禁じます)

8月 03

沖縄戦の「闇」をえぐるドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』

第2次大戦末期、民間人を含む20万人余りが命を落とした沖縄戦の秘話を追ったドキュメンタリー映画。

スパイを養成した特務機関、陸軍中野学校出身のエリート青年将校との深い関わりをあぶり出す。

©2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会

〈沖縄〉の過去と現在を見据える三上智恵監督と大矢英代監督の共同作品。

徹底した現場主義と証言集めを貫く本作には熱きジャーナリスト魂が迸っている。

©2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会

©2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会

©2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会

米軍上陸後、本島南部での激戦を題材にした映画はこれまで多く作られた。

しかし日本軍の降伏(1945年6月23日)以降、北部で展開されたゲリラ戦はあまり知られていない。

そこに焦点を当てた。

いきなり驚愕の事実が浮き彫りにされる。

10代半ばの少年兵からなる「護郷隊」の存在だ。

©2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会

隊員は米軍施設への夜襲や爆破を繰り返し、時にはわざと米兵に捕まり、収容所内で破壊工作を行っていた。

彼らはゲリラ戦や諜報活動に特化した子供たち。

世界各地の内戦でクローズアップされる少年兵が沖縄戦でも暗躍していたとは……。

何ともやるせない。

しかも末路は悲劇そのもの。

本来は非戦闘員なのに、お国のために闘わされ、生き残ってもPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみ続けた。

地域の有力者や学校の教諭も動員され、「国士隊」が結成された。

住民同士を監視、密告させる秘密組織である。

さらにマラリヤ蔓延地への島民の強制移住、スパイ・リストに基づく住民虐殺……。

次々と惨劇が突きつけられる。

©2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会

これらを画策したのが中野学校の卒業生42人。

生存者を探し、インタビューを通じて、「深い闇」を解き明かそうとする。

©2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会

自衛隊が旧日本軍の体質を引き継いでいる点にも言及し、今の問題として沖縄秘密戦を捉えた。

戦後73年。

考えさせられる濃密な映画だった。

1時間54分。

★★★★(見逃せない)

☆4日から大阪・第七藝術劇場、京都シネマ、順次元町映画館 にて公開。

(日本経済新聞夕刊に2018年8月3日に掲載。許可のない転載は禁じます)

7月 27

あっと驚く知られざる事実~ドイツ映画『ヒトラーを欺いた黄色い星』

第2次大戦中、ナチスドイツのお膝元、首都ベルリンに約7000人のユダヤ人が潜伏し、そのうち1500人が生き残った。

知られざるこの歴史的事実を骨太なノンフィクション・ドラマとして再現した。

©Peter Hartwig

クラウス・レーフレ監督がテレビのドキュメンタリー番組の制作過程でこのことを知り、4人の生存者を突き止めた。

それが映画化の発端となった。

当時、16~20歳の男女各2人。

ドイツ人兵士になりすます。

戦争未亡人を装う。

ヒトラー・ユーゲント(青少年団)の制服を着る。

髪の毛をブロンドに染め、別人に生まれ変わる。

©Peter Hartwig

彼らは国家に存在しない「透明人間」となり、ゲシュタポ(秘密国家警察)の監視の目を逃れようとした。

いつ正体がバレるやもしれぬ恐怖心と孤独感がビンビン伝わってくる。

全編を包み込む緊迫感あふれる映像がサスペンス映画のような雰囲気を醸し出した。

4人が翻弄される様子も非常にドラマチックで、フィクションではないかと思ってしまうほど。

しかし、今や年老いた実際の生存者へのインタビューと大戦時の記録映像が随所に挿入され、実話であることを思い知らされる。

この演出は効いていた。

各人、交錯することなく、平行して描かれる。

だから群像ドラマではない。

変に脚色せず、事実を突きつけ、強靭な精神と運に導かれ、ひたすら懸命に生き延びようとする姿を浮き彫りにするのだ。

©Peter Hartwig

ナチスに賛同しないドイツ人や反ナチス活動家も登場する。

そこにドイツ国防軍の将校がいたのには驚かされた。

©Peter Hartwig

一方、身を隠す同胞を見つけ、密告するユダヤ人も描かれる。

ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を扱った映画は多々ある。

その中で埋没していた史実を掘り起こし、独特な視点で検証した本作を高く評価したい。

1時間51分

★★★★(見逃せない)

☆7月28日(土)~テアトル梅田、8月4日(土)~シネ・リーブル神戸、8月4日(土)~京都シネマ   

☆配給:アルバトロスフィルム

(日本経済新聞夕刊に2018年7月27日に掲載。許可のない転載は禁じます)

7月 11

読みごたえバッチリ、『映画で語るアイルランド 幻想のケルトからリアルなアイルランドへ』

『映画で語るアイルランド 幻想のケルトからリアルなアイルランドへ』(論創社、定価:本体3000円+税)。

映画とアイルランドをこよなく愛するぼくには、たまらなく素敵な一冊です。

20年前、ぼくが上梓した『ケルト映画紀行 名作の舞台を訪ねて』(論創社)でご縁ができた筆者の一人、岩見寿子さん(日本アイルランド協会理事)から謹呈してもらいました。

ありがとさんです~😁

アイルランド映画を大所高所から斬り込んでおり、しかもてんこ盛りの内容~❗

この20年の間にアイルランドを取り巻く映画環境が随分、変わったこともよくわかりました。

『ケルト映画紀行』の続編としてこういう書物を出したかったなぁ……。

「バイブル」として大事に持っておきます~😁

7月 07

男女の対決(?)、テニス界世紀の一戦を再現~米映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

ベトナム戦争の和平協定が締結された1973年、アメリカで世界が注目したテニスのビッグマッチが行われた。

現役の女子世界チャンピオン、ビリー・ジーン・キングと元男子王者ボビー・リッグスとの対戦。

29歳と55歳。

性差を超えたこの試合を本作は詳細に再現する。

男女平等が叫ばれてはいたが、現実には大きな壁が立ちはだかっていた。

そんな当時の空気が濃厚に盛り込まれている。

テニス歴ゼロのエマ・ストーンが4か月間の特訓を積んで扮したビリー。

銀縁眼鏡をかけ、地味な風貌だが、芯はたくましく、驚くほど行動力がある。

女子の優勝賞金が男子の8分の1と定めた全米テニス協会に反発し、仲間と共に女子テニス協会を立ち上げる。

スポンサーを探し、独自に試合を開催。

メディアも熱い眼差しを注ぐ。

この動きに真っ向から挑んだのがボビー。

男性優位を声高に訴え、全女性を敵に回す。

しかしどこか演技じみている。

その理由があとで浮き彫りにされる。

目立ちたがり屋のボビーをスティーブ・カレルがやや過剰に演じ、コミカル風味を醸し出した。

それが本作の持ち味となった。

脚本はヒット作『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)で頭角を現した英国人のサイモン・ボーフォイ。

ビリーの恋人やボビーの夫婦仲、社会と政治の動きを加味し、単なるスポーツ物語に終わらせなかった。

共同監督のヴァレリー・ファリスとジョナサン・デイトンの夫婦が2人の内面をあぶり出し、人間ドラマへと昇華させた。

少し冗漫な部分もあったが、クライマックスの試合はテレビ中継を観ているようで、臨場感満点だった。

女性解放運動に火をつけた歴史的な出来事。

それを女性対男性の構図にせず、2人の友情めいた関係を強調した点が評価できる。

ビリーのその後が素晴らしい。

2時間2分

★★★★(見逃せない)

☆TOHOシネマズ梅田ほかで公開中

(日本経済新聞夕刊に2018年7月6日に掲載。許可のない転載は禁じます)

6月 25

日本スコットランド交流協会(JSA)関西支部の講演会、大盛況でした~(^_-)-☆

『映画・ウイスキー……エトセトラ in SCOTLAND』

昨日、こんな演題で日本スコットランド交流協会(JSA)関西支部の講演会を務めさせていただきました。

おかげさまで、会場のとよなか国際交流センターは満員御礼でした。

ご参加、ありがとうございました~!

スコットランド好き、映画愛好家、ウイスキー通、バーテンダー、いっちょかみの人(笑)…… 。

嗜好の異なるいろんな方々を前に、150枚もの画像を示しながらのマシンガントーク~💦😁

話があっちへ行ったりこっちへ行ったり……、インド放浪の話まで及びましたが、皆さん、笑いながら楽しそうに耳を傾けていただきました。

40年前、スコットランドの土を初めて踏んで以来、これまでに10数回訪れていますが、喋っているうちにまた無性に行きたくなってきた~😁

講演終了後、酒好き仲間(酒呑みとちゃいます~❗)と共に豊中界隈で「懇親会」~🍶

居酒屋とバーのハシゴ酒。

1軒目は阪急「服部天神」駅前の絵酒屋「政宗屋」。ほんまに安いです~(^_-)-☆

2軒目は豊中駅の近くにあるバー(ライブ・スポット?)の「我巣灯」。美味なウイスキーを満喫しました~(^.^)/~~~

大いに弾けて語り合い、めちゃめちゃ愉快でした。

そんなこんなで、充実した1日に相成りました~!(^^)!

6月 15

池井戸潤の原作、初の映画化作品~『空飛ぶタイヤ』(14日公開)

「半沢直樹」「下町ロケット」「陸王」などテレビドラマ化が相次ぐ作家、池井戸潤の原作で初の映画化作品。

企業の不正にメスを入れた娯楽作に仕上がった。

逆転劇が実に爽快だ。

©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

運送会社のトレーラーが走行中に突如、前輪タイヤが外れ、通行人の主婦を直撃、即死させた。

全く想定外の出来事だった。

車体を製造した自動車会社の調査によって運送会社の整備不良と判断される。

社長の赤松(長瀬智也)は車両の欠陥ではないかとメーカーの担当課長、沢田(ディーン・フジオカ)に再調査を要求するが……。

©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

運送会社の厳しい経営状況を前面に打ち出し、赤松が窮地に陥っていく姿を軸に据える。

彼を支える社員の団結ぶりが共感を呼ぶ。

©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

そこに自動車会社、同社と深い関係にある銀行の動きが並行して描かれる。

さらに担当刑事、週刊誌記者、家族、遺族、他の運送会社社員が絡み、物語を重層的に構築していく。

ドラマの牽引役は赤松、沢田、銀行本店営業部の井崎(高橋一生)。

別々に行動する3者の思いがやがて集約し、重大な疑惑が浮上してくる。

サスペンス風の展開が何とも小気味よい。

©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

とりわけ沢田が社内で同志の社員と隠密行動を取るくだりが非常にスリリング。

常務取締役の狩野(岸部一徳)が時代劇の悪代官のように思えた。

本木克英監督の演出はテンポとキレがよく、ぐいぐい引きずり込む。

複雑な人間関係も手際よくまとめられ、作品を覆う濃密な空気に酔わされた。

赤松に扮した長瀬の演技はやや熱すぎたが、クールさが際立つ沢田役のフジオカと好対照となり、メリハリをつけた。

ただ井崎役の高橋の影が薄かった。

企業の不正と隠蔽を断じて許さない。

良識ある者は報われる。

勧善懲悪的な内容とはいえ、何度も心を揺り動かされた。

芯のある「企業映画」だ。

2時間

★★★★(見逃せない)

☆14日から大阪ステーションシティシネマほかで全国公開

(日本経済新聞夕刊に2018年6月8日に掲載。許可のない転載は禁じます)

6月 14

Osaka Metroのアプリ『Otomo!』にぼくのエッセイ「〈映画のふるさと……難波!〉が掲載中

Osaka Metro(旧大阪市営地下鉄)のアプリ「Otomo!」に掲載中のぼくのエッセイです。

タイトルは、『〈映画のふるさと〉……難波!』

これ、拙著『大阪「映画」事始め』(彩流社)を上梓した2年前から訴えていることです。

  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

大阪見物をしたいと先日、東京から知人が来阪しました。

ありきたりな観光スポットでは芸がない、どこか穴場がないものかとあれこれ思案していると、この人が大の映画好きで、歴史にも興味を持っていることを思い出し、ならば、ここしかないと連れて行ったところが難波でした。

夕方、待ち合わせ場所の梅田で再会し、難波へ行くと告げると、「何度も行ったことありますよ」と怪訝な顔を。

ぼくはニタニタ笑い、「あっと驚く知らない難波ですよ」。

なんば駅に向かうOsaka Metro御堂筋線の車中でのやり取り。

「今や映画と映像が世の中にあふれ返ってますが、そもそも日本で最初に映画の興行が行われたのはどこか知ってはりますか」

彼は即座に「京都でしょう」

ブーッ、ハズレ。

「ちゃいますよ。大阪です。それも難波」

「えっ!」

なんば駅の南改札口から地上に上がったところに「TOHOシネマズなんば」や「なんばマルイ」などが入る複合商業ビルの東宝南街ビルが建っています。

向かい側は荘厳な外観を呈する髙島屋大阪店です。

東宝南街ビル

「かつてここにあった南地演舞場で、映画が初めて一般公開されました。入場料を取って観せたので、日本における映画興行の始まり。今から121年前のことです」

このあとぼくはかいつまんでこんなふうに説明しました――。

時は明治30(1897)年2月15日。その映画とはフランスの映写機シネマトグラフによる映像。

南地演舞場は「南地五花街」の綺麗どころの技芸向上を目的に造られた豪勢な木造家屋でした。

長らく存続していたのですが、戦時中の建物疎開で撤去されました。

南地演舞場(『近代大阪の建築』大阪府建築士会1984年)

シネマトグラフは、リヨンのリュミエール兄弟が発明した世界最初のスクリーン投影式映画です。

商用でフランスを訪れていた京都の実業家、稲畑勝太郎さん(稲畑産業の創業者)がその装置とフィルムを持ち帰り、ここで一般上映したのです。

稲畑勝太郎さん(『稲畑八十八年史』 稲畑産業1978年)

シネマトグラフの装置(左)、右は投光器(リヨンのリュミエール研究所で筆者が撮影)

当時、ドラマなんてものはなく、風景や人物の実写だけ。

それも上映時間が1分~3分と短い。それでも写真が動いたので、みなびっくり。

2週間にわたって公開され、連日、押すな押すなの大盛況でした。

「ここに映画興行発祥地の碑文がありますよ」

戎橋商店街から東宝南街ビルのエレベーター乗り場に知人を導き、奥の左手の壁にはめ込まれた銅板プレートを指さしました。

これは昭和28(1953)年、以前あった南街劇場が完工された際、東宝社長の小林一三さんが歴史的事実を知って作ったものです。

髙島屋前から北に戎橋商店街を臨む

戎橋商店街から見たエレベーター乗り場

「映画興行発祥地」の碑文

「このモニュメントの存在を知らない人が多いでしょうね」

「そうなんです。表の商店街に『映画興行発祥地』の説明板を立てれば、観光客にもアピールできると思うんですが……」

さらにぼくは言葉を紡ぎました。

「ここは映画が一般公開されたところですが、最初に試写上映されたのは別の場所なんですよ」

碑文に目を通していた知人は反射的に振り向きました。

「えっ、試写ですか? シネマトグラフの?」

「ちゃいます。もうひとつ別の映写機があったんです。それはエジソン商会が販売したアメリカ製の映写機ヴァイタスコープ。エジソンというのはあの有名な発明王です」

東宝南街ビルを離れ、髙島屋西側のパークス通りを200メートルほど南下し、大きな換気塔がそびえる「難波中」交差点の北東角に来ました。

南側には複合施設のなんばパークス。

かつて南海ホークスの本拠地、大阪球場がありました。

あゝ、懐かしい……。

パークス通りを南に臨む

「難波中」交差点

「心斎橋の舶来品雑貨商、荒木和一さんという人が渡米中、シカゴでヴァイタスコープの映像を観て驚き、すぐにニューヨークへ向かい、エジソンと直談判の末、装置とフィルムを輸入しました。そして明治29(1896)年12月のある日、この場所にあった福岡鉄工所で試写を行ったんです」

荒木和一さん(同志社大学図書館『荒木英学文庫目録』 1978年)

ヴァイタスコープの装置
(『シネマの世紀 映画生誕100年博覧会』カタログ 川崎市市民ミュージアム1995年)

福岡鉄工所(『成功亀鑑』1907年)

ぼくが一気に説明すると、東京のジェントルマンはいたく興味を示しました。

「どうして鉄工所で?」

「ヴァイタスコープは直流の電動式やったんですが、大阪の電気は交流。そのままだと動かないので、電気変換器が必要になり、あちこち探し回ったところ、福岡鉄工所に変換器があるのがわかったんです」

「なるほど」

「京都で行われたシネマトグラフの試写はこれよりもずっと後のこと。つまり、日本で初めて映画がスクリーンに映されたのはこの場所に間違いないと思いますよ」

荒木さんは試写上映をいち早く成功させながら、一般公開はシネマトグラフに先を越され、1週間後の2月22日から3日間、難波の北西1.4キロ離れた西区の新町演舞場でヴァイタスコープの興行を打ちました。

「フランスのシネマトグラフとアメリカのヴァイタスコープ。映画の渡来をめぐり、こんなドラマチックな攻防があったとは全く知らなかった。それも大阪が舞台だったんですね」

東京の客人はやや興奮気味。

「はい、大阪の中でも難波です。映画の初上映と初興行の地なので、難波が日本における〈映画のふるさと〉と言ってもいいでしょう。このことをもっとアピールせなあきませんね」

気がつくと、薄暮になっていました。

阿吽の呼吸で2人して近くの居酒屋へ直行。

想定外の大阪見物を体験した知人は「確かにあっと驚く知らない難波でした」と満足そう。

ぼくの方もひと味違った〈おもてなし〉ができ、うれしかったです。

そして乾杯! 

ビールが美味かった。 

6月 13

『映画・ウイスキー…エトセトラ in SCOTLAND!』、24日(日)、とよなか国際交流センターで!

以前にも告知させてもらいましたが……。

『映画・ウイスキー…エトセトラ in SCOTLAND!』(日本スコットランド交流協会関西支部主催)。

こんなタイトルで、脱線しまくりながら(笑)、お話しします。

24日(日)14時~16時、とよなか国際交流センターで。*阪急宝塚線「豊中」駅西隣

まだ少し残席があるようです。

知的好奇心をそそられた方(笑)、お気軽にどうぞ~(^_-)-☆

6月 08

カンヌ映画祭パルムドール受賞作~『万引き家族』

家族のあり方を問う映画を次々と手がける是枝裕和監督。

最新作もその路線だが、意表を突く想定外の物語だった。

犯罪を介したワケあり家族……。

カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドール受賞作。

大都会の真ん中にポツンと建つ古びた平屋の一軒家。

室内は散らかし放題で、とにかく汚い。

そこに5人家族が暮らしている。

日雇い労働者の父親(リリー・フランキー)、クリーニング店で働く母親(安藤サクラ)、彼女の妹(松岡茉優)、息子(城桧吏)、そして祖母(樹木希林)。

下品な言葉が飛び交い、喧嘩も絶えない。

しかし常に会話があり、みな自然体で、表情が明るい。

どこか昭和の匂いが感じられる。

この家族の実像が冒頭から暴かれる。

スーパーで父親と息子が万引きをするのだ。

祖母の年金と夫婦の収入でやり繰りできなくなると、安易に犯罪に走る。

他の家族も類似のことをしているのが後でわかってくる。

罪の意識が全くないのが驚きだ。

是枝監督は彼らを犯罪者としてではなく、どこまでも寄り添って見つめる。

団地の廊下で座っている女の子(佐々木みゆ)を父親が連れて帰り、家族の一員にしてからドラマがさらに盛り上がる。

その子の体には傷やアザが……。

社会の繁栄から取り残された奇妙な家族像が次第に明かされていく。

各人、いろんな事情を抱えているのが随所に挿入される過去の映像で浮かんでくる。

1枚1枚、ゆっくりと剥がされていく虚構の皮。

一体、彼らは何者なのだ? 

その答えを導く過程を、多彩な俳優陣の演技力を生かし、寓話的に描いているところが本作の持ち味。

血縁とは関係のない家族の繋がり。

『そして父になる』(2013年)、『海街diary』(15年)とテーマが同じだ。

現代社会の断片をこんな風に斬るとは恐れ入った。

2時間

★★★★(見逃せない)

☆8日からTOHOシネマズ梅田ほかで公開

(日本経済新聞夕刊に2018年6月8日に掲載。許可のない転載は禁じます)

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